衰退続く「養蚕業」に新ビジネス マユの成分「保湿性があるたんぱく質」で食材が長持ちに

カイコのマユからシルクをつくる「養蚕業」。かつては日本の主力産業でしたが、これまで衰退が続いてきました。ところが今、シルク産地の1つの愛媛で、スタートアップ企業がマユから「ある素材」を生み出し、養蚕に新たな可能性をもたらしています。

愛媛県八幡浜市にあるみかん農園では、出荷するみかんに透明な液体をスプレーしています。この液体は、みかんの賞味期限を延ばす画期的な技術です。一般的なみかんの賞味期限は収穫から約3週間ですが、このスプレーを使用することで1カ月以上延ばせるといいます。

このスプレーを開発したのは、愛媛県にある従業員13人のスタートアップ企業「ユナイテッドシルク」。同社は養蚕(ようさん)業を基盤にし、蚕の成長に合わせて湿度や温度を管理することで、季節が限られていた養蚕を1年中可能にしました。年間約1トンの繭を生産しています。
スプレーの原料はシルクのタンパク質

スプレーの原料となる繭から抽出されるのは、保湿性に優れたタンパク質「フィブロイン」です。フィブロインを水に溶かしてみかんの表面に吹きかけることで、水分の蒸発を防ぎ、長持ちさせられるといいます。ユナイテッドシルクではこのフィブロインに着目し、スプレー以外にもさまざまな製品を開発しています。

例えばフィブロインを練り込んだ食パンは、生地の水分を閉じ込めることで、もっちりしっとりした食感に。さらにフィブロインを混ぜた石けんは、保湿や紫外線カットといった効果が期待できるとしています。

愛媛県は皇室が採用する高品質シルク「伊予生糸」で知られるシルク産地です。しかし化学繊維の普及によってシルク需要は減少し、かつて1500戸ほどあった養蚕農家は現在では8戸に減少しました。そこで、もともと大手商社の繊維担当だった河合崇社長はユナイテッドシルクを立ち上げ、全国の養蚕農家と連携して新しい用途を共同開発しています。
連携先の1つである愛媛県大洲市の瀧本養蚕代表、瀧本慎吾さんは「生産した繭が色々な形に生まれ変わるっていうのは、ものすごく生産者としても楽しみです」と話します。
世界市場を目指すユナイテッドシルクの挑戦

ユナイテッドシルクの取り組みは注目を集め、2024年度には全国の企業や自治体から3億円の資金を調達しました。河合社長は、「最終的には海外への輸出を目指し、日本のシルク素材を世界へ広めていきたい」と語ります。そのために、繭の生産を2年後に500トンに増やす計画で、新工場の建設も予定しています。

日本経済新聞社 安部将隆記者:
「海外販路を開拓するうえでは、中国やインドなどの安価で大量に生産されたシルクと競争をしなければなりません。その点、パウダーや水溶液に加工して高付加価値な製品にすることは、グローバル市場での勝機があると考えられます」