柔らかさがウリの小ぶりなアワビ 独自開発の細長い水槽で養殖 価格は天然の半分程度の5個入り2800円

高級食材のアワビを身近な食材にしようという取り組みが始まっています。水の量も電気代も飼育期間も少なくできる独自の技術に迫りました。
福島町名物「あわびカレー」

北海道南部に位置する福島町の道の駅には、この土地ならではのヒット商品があります。それが「あわびカレー」です。このカレーに使われているアワビは、スプーンで簡単にすくえるほど柔らかい40グラムほどのサイズ。歯ごたえが柔らかいため、子どもから高齢者まで、どんな人でもおいしく食べることができます。
1食にアワビが2個入って、価格は1512円。多い年には7000食以上を売り上げるほどの人気商品です。
独自に開発された養殖施設

カレーに使われているアワビは、海のすぐそばにある養殖施設で作られています。中をのぞくと無数の「棚」があり、中にはたくさんのアワビが。一般的なアワビ養殖では大きな水槽が使われますが、この施設は独特な景観です。
この養殖設備を独自に開発したのは、町の水産アドバイザーを務める山内繁樹さんです。

養殖施設を開発した元福島町水産アドバイザー
山内繁樹さん:
「きちっとした産業がなければ、(将来)人がここで住めなくなります」
漁業の衰退とアワビ養殖の歴史

かつて天然アワビが豊富にとれていた福島町ですが、海水温の上昇などにより、1970年頃をピークに漁獲量は激減。現在は当時の1割にも満たないほどです。
1990年代に北海道庁から出向してきた山内さんは、この状況を打開しようとアワビ養殖の復活を考えました。しかし、当時は水槽方式のコストが課題となり、一度は見送られました。
試行錯誤の末に生まれた「棚」式養殖

山内さんは、陸上養殖の最大の課題であった水のコストをいかに抑えるかを長年研究。何年もの試行錯誤の末、独自に開発されたのが「棚」でした。
棚は、互い違いに2度ずつ傾斜がつけられた細長い水槽で構成されています。上から海水を落とすと、傾斜によって自然に水が流れる仕組みに。そのため、アワビたちは常に動きのある水流の中で育ちます。

この方法なら水槽を使用する場合と比べて水の量が5分の1で済み、水をくみ上げる電気代も大幅に抑えられます。アワビを管理する水産技術員の谷藤朗さんは「新鮮な水が流れているため、病気も発生しにくい」と絶賛します。
差別化された商品戦略

養殖施設で育てたアワビは、資源保護の観点から大きく育たないと採取できない天然ものと差別化するため、あえて小ぶりな5.5センチで出荷しています。柔らかさが最大の売りです。
養殖期間が2年と短いため、冷凍商品も天然アワビより5割ほど安い5個入り2800円で販売。手に取りやすい価格となっています。

このアワビ事業は、施設の運営から加工、販売まで全てを福島町が手がけています。2020年の販売開始から5年で約10万個を販売し、売上は約2000万円を達成しました。
今後は、さらなる生産拡大を目指し、黒字化と地元への恩恵につなげていきたい考えです。
日本経済新聞社 橋川咲良記者:
「現在は役場が主体となり養殖事業に取り組んでいますが、今後、生産量が増えれば民間企業への委託など協力を得たい考えです。福島町の新たなビジネスモデルの構築につながっています」

福島町の鳴海清春町長は、「これまで培ってきた歴史の中にある食文化を、手頃な価格で皆さんの食卓に届けたい。この先10年で、1億円の産業に育てたいです」と、この事業への期待を語りました。