
カンボジアを拠点にした詐欺未遂容疑で日本人29人逮捕 専門家「カンボジアは犯罪拠点生き残りやすい」

カンボジアを拠点に特殊詐欺に関与したとみられる日本人29人が現地当局に拘束された事件で、愛知県警は8月20日、29人全員を日本に移送し、詐欺未遂の疑いで逮捕しました。
記者リポート:
「午後7時前です。捜査員に連れられ、容疑者29人が到着ロビーから出てきました。まっすぐ前を見つめる容疑者もいれば、顔を覆い隠す容疑者もいます」
列をつくり中部国際空港内をゆっくりと歩く容疑者たち。詐欺未遂の疑いで逮捕されたのは、いずれも住所・職業不詳の大坪裕介容疑者や福丸尚美容疑者ら日本人29人で、中には19歳の男3人も含まれています。
警察によりますと、29人はカンボジア北西部のポイペトにある拠点で、2025年5月27日、共謀のうえ東京・八王子市に住む男性に警察官などをかたったうその電話をかけ、現金をだまし取ろうとした疑いがもたれています。
29人は8月20日カンボジアからの移送中、日本の領空に入ったところで逮捕されました。警察は29人の認否を明らかにしていませんが、8人ほどの中国人の管理のもと、かけ子をしていたとみられています。
また警察の調べで、29人がいたポイペトの犯罪拠点では、2025年2月から5月までの間に同様の手口で、約14億円の犯罪収益を得ていたとみられることが新たに分かりました。警察は、かけ子役を勧誘したリクルーター役や現地での案内役がいるとみて組織の実態解明に向けて、調べを進めています。
「犯罪拠点は壁で囲まれているような区画の中に作られている」専門家指摘
2025年に入り愛知県警は、ミャンマーを拠点に「かけ子」をしていたとして高校生らを詐欺容疑で逮捕しています。なぜカンボジアやミャンマーなどの東南アジアが詐欺の拠点となるのか。専門家に聞きました。
東南アジアの情勢に詳しい近畿大学総合社会学部の岡野英之准教授です。
近畿大学総合社会学部 岡野英之准教授:
「詐欺拠点ってカンボジアだけにあるわけではなくて、東南アジアに広がっていて、基本的にはビルであったり、コンパウンドという壁で囲まれているような区画の中に作られているということが多いんですよ」
新型コロナウイルスの流行が詐欺拠点が増えたきっかけ
愛知県警の調べによると、ポイペトの犯罪拠点には居住施設があり、武装した警備員が常駐。1日3食の配給があったとみられています。
近畿大学総合社会学部 岡野英之准教授:
「(東南アジアに犯罪拠点が)どういうふうに入ってきたかというと企業誘致。企業が半分犯罪に手を染めていたというようなところがあって、というのはもともとカジノの運営母体。中国からやってきた人たちで、ターゲットは中国人の富裕層」
そういった組織が詐欺に手を染めるきっかけとなったのが、新型コロナウイルスの流行だったといいます。
近畿大学総合社会学部 岡野英之准教授:
「(コロナによる移動制限で)中国人のカジノのお客さんが来なくなる。そうすると同時にやっていたオンラインカジノというものに重点が置かれるようになり、(そこに出る広告から)手を変え品を変え、何とかオンライン詐欺のサイトに誘導しようという(動きになり)、そしてそこから詐欺というふうなものが活動の中心になっていくという変化がある」
汚職がまん延する「カンボジア」犯罪拠点が生き残りやすい環境
特にカンボジアには犯罪拠点が生き残りやすい環境があると言います。
近畿大学総合社会学部 岡野英之准教授:
「カンボジアは汚職がひどいことで知られている。地元の政治家とか、大物のビジネスマンとか、そういう人たちに便宜を図ってもらったりとか、あるいは土地を借りて大きなお金を落としたりする。そうした人たちは警察や治安当局につながっているということになると、(その関係を後ろ盾に)うち(=犯罪拠点)は取り締まるなということになる」
今後、東南アジアにある犯罪拠点はどうなっていくのでしょうか。
近畿大学総合社会学部 岡野英之准教授:
「汚職があるけれども、取り締まりはできるという地域に対しては、どれだけその政府が、あるいはその治安当局が(取り締まりに)真剣になれるかっていうふうなことにかかっていると思うんです。国際的な協力体制をとることによって詐欺拠点が取り締まられているというのは間違いないが、治安当局の力が十分に及ばないミャンマーだとかは新たに犯罪拠点が生まれるということも考えられなくはない」