
防災気象情報のポイントは色と数字 シンプルにするため2年半「一番難解なパズルだった」暮らしの防災

6月は雨の季節です。今回のテーマは「避難のタイミング」。その目安となる防災気象情報について以前も説明しましたが、重要なことなので改めて取り上げます。防災情報は、気象警報(大雨警報など)・川の情報(氾濫警戒情報など)・避難情報(高齢者等避難など)があります。種類の多さに加えて似ているように見え、正直わかりにくいのが現状です。そこで気象庁と国土交通省は、シンプルでわかりやすくする作業を行っています。今年の秋から「新しい案」の周知活動が始まり、来年から運用開始される予定です。しかし、それでもちょっと…。そんな防災気象情報を理解するポイントは「色と数字」です。
避難のタイミングは赤と紫

気象庁と国土交通省は、迫る災害の「危機感」を住民に伝えようと、解析技術の進歩やスパコンの性能向上を活用し、防災気象情報を次々と開発し追加してきました。しかし数が多くなり、その名前も長いことから、情報をパッと見て直観的に「何がどう危ないのか」「どんな避難行動をすればいいのか」が、わかり難くなっています。「継ぎはぎの増改築」とも揶揄されています。
(注)防災気象情報一覧の図は、あまりにも複雑なのでここでは掲載しません。
そこで防災気象情報を「警戒するレベルでグループ化」し、危険度を示す色とそれに合わせた避難行動を示す数字をつけて示すようにしました。情報はこの色を使ったデザインで発表されるので、「ポイントになる色」を覚えておけば、適切な避難行動につながります。
避難行動を考えると、「赤・3」と「紫・4」がポイントになります。
「赤」=警戒=警戒レベル3相当=高齢者等避難
高齢者や障害のある人など、避難に時間のかかる人やその支援者らが、危険な場所から避難する。それ以外の人も、普段の行動を見合わせたり避難の準備をしたり、危険を感じたら自主的に避難する。
「紫」=危険=警戒レベル4相当=避難指示
対象となる地域の方は危険な場所から全員避難する。
「赤・3」高齢者等は危険な場所から避難、「紫・4」は全員避難と覚えておけばいいのです。
一番難解なパズル

それでも分かりづらいので、気象庁と国土交通省は「防災気象情報に関する検討会」を設置し、シンプルでわかりやすくする検討を約2年半かけて行いました。
「情報の名前にどんな要素(単語)を入れるのか?」「名前をどう短くするのか?」「警戒レベルを名前にどう入れるのか?」など課題山積、なかなかまとまりませんでした。
検討会の座長・矢守克也京都大学防災研究所教授は、この作業を「人生で直面したパズルの中でも一番難解なパズル」と話しています。
来年の出水期(雨の季節)から運用される予定

検討会は去年5月に議論を終え、気象庁は去年6月に「最終とりまとめ」を発表しました。この「新しい案」は、今年秋から周知活動が始まり、来年の出水期(雨の季節)から運用される予定です。
(注)情報名称の最終決定は、法制度や実際の情報の運用、伝え方なども踏まえ、気象庁・国土交通省が行います。
矢守座長は今回の「新しい案」について、「ホップ ステップ ジャンプで言えば、今回はステップ。いずれもう一度改訂し、そこでジャンプする」と話しています。ジャンプ=最終形です。状況を見てさらなる検討をして、段階的に最もわかりやすい防災気象情報にしていこうという考えです。
今回の「新しい案」=ステップでも、これまで通り「赤」「紫」の位置づけは同じです。「赤・警戒・3・高齢者等避難」「紫・危険・4・避難指示」です。防災気象情報の名前が変わっても大丈夫です。
ジャンプ案のイメージは地震の震度階級的?

防災気象情報のジャンプ=最終形のイメージも、「検討会とりまとめ」の資料に掲載されています。災害名+レベルだけで表示し「超シンプル」になっています。
現在、地震の震度速報で「震度6強」「震度4」「震度3」と聞くと、だいたいどの程度の規模の地震で、危険度はどのくらいか、多くの人はイメージできます。
将来、洪水・大雨・土砂災害・高潮について防災気象情報で、例えば「洪水4(紫)」とか「大雨3(赤)」と発表されると、住民が「4=危険=避難指示だ」「3=警戒=高齢者等避難だ」と、直観的に分かるようになれば…そんな思いを持っているそうです。地震の震度階級が生まれてから100年少し経っています。それから試行錯誤が続き、長い時間をかけて国民の間に定着してきました。
防災気象情報は、「シンプルでわかりやすい形」を目指し改良が続いていくはずです。しかし、「赤・警戒」「紫・危険」とその避難行動は変わらないはずです。「赤」「紫」がキーワードです。そして「早めの避難」、避難しても災害にならなかった場合は「はずれてよかったね」が重要です。この話題は、今後も取り上げて行きます。
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被災地取材やNPO研究員の立場などから学んだ防災の知識や知恵を、コラム形式でつづります。
■五十嵐 信裕
東京都出身。1990年メ~テレ入社、東日本大震災では被災地でANN現地デスクを経験。報道局防災担当部長や防災特番『池上彰と考える!巨大自然災害から命を守れ』プロデューサーなどを経て、現ニュースデスク。防災関係のNPOの特別研究員や愛知県防災減災カレッジのメディア講座講師も務め、防災・減災報道のあり方について取材と発信を続ける。日本災害情報学会・会員 防災士。