
イメージを変えるかも知れない「フェーズフリー防災」 地方自治体や民間企業への広がり【暮らしの防災】

新しい形の防災として広がり始めている「フェーズフリー防災」をご存知でしょうか?「フェーズフリー防災」では、「いつも=平常時」と「もしも=非常時」の2つの「フェーズ=局面」の間にある壁を、「フリー=自由(無くす)」にするという視点から「防災」にアプローチします。
「備えない防災」とも呼ばれています。災害が起きた時のために準備するのではなく、日常で使っているものを災害時に役立てるという考え方です。防災は難しい、手間がかかる、面倒臭いと思われがちですが、そのイメージを変えるかも知れません。
暮らしの側から考える防災

日常の行動・活動から入っていくフェーズフリー防災は、私たちの暮らしだけでなく、地方自治体や企業にも広がり始めています。まさに「新しい防災」です。
かつて「防災の日常化」が提唱されました。これは、非常時の防災の視線・行動を、毎日の暮らしの中に取り込もうというものでした。あれっ?どこかフェーズフリー防災と似ている感じがします。
「フェーズフリー防災」と「防災の日常化」は“平常時”を出発点とするのか“非常時”を出発点にするのかの違いで、表と裏の関係だと、私は思います。具体的に何をやるのか?をみるとそう離れていません。
「フェーズフリー防災」は、日常から考えるので誰でもイメージしやすく、始めやすいという印象があります。「防災の日常化」は防災の側から見て提唱したので、どこか取っ付きずらく見えたのかもしれません。
具体的に何をやるのか?

では、私たちの暮らしの中でのフェーズフリー防災はと言うと…
・食料のローリングストック 好きな食べ物でOK
・非常持ち出し袋の中身の軽量化 普段持ち歩くバッグに入るようにする
・PHVやハイブリッド車を使う(非常時電源対策)
・ショッピングバッグを災害時にバケツとして使えるものにする
・キャンプやおうちでキャンプ体験
などです。確かに「暮らしに密着」しています。
自治体や一般企業など社会にも展開

「フェーズフリー防災」には、もう一つ大きなポイントがあります。それは地方自治体や民間企業への広がりです。例えば「フェーズフリー防災」を実践している徳島県鳴門市では、学校の授業の内容に防災の考え方を紐づけて教えています。普段の学習の場で防災について学びます。
また道の駅「くるくるなると」では、食品売り場の商品を災害時には非常食として避難者に提供するルールにしています。
防災の行動指針に「フェーズフリー」の考え方を導入

屋上は、普段は子どもたちが遊ぶ公園になっていますが、24時間入ることが可能で、災害時は津波からの避難場所になります。このほか多くの自治体が、防災の行動指針に「フェーズフリー」の考え方を導入し始めています。
一般企業もフェーズフリー防災の考えを取り入れて、商品やサービスの開発・提供を行い始めています。「防災はお金にならない、お金がかかるだけ」とよく言われます。そこでフェーズフリー防災の推進を行う「一般社団法人フェーズフリー協会」では、「企業が防災活動をして利益が出るようになれば、もっと防災が広がるのでは!」として、企業に活動への参加を呼びかけています。防災で新たなビジネスを生み出し、そこから防災を展開し恒久化させようという試みです。
南海トラフ巨大地震、活断層による直下型地震、豪雨・河川・土砂災害など、東海地方には対策が必要な自然災害がたくさんあります。まず、身の回りにあるもの、日々の行動が、災害時にどう活用できるのか?から考えてみてください。
備えない防災

防災とは「災害を防ぐ」・「災害に備える」ことです。備えるのは面倒に感じます。しかし、フェーズフリー防災は、普段からやっていることからのアプローチなので「備える必要はない」としています。つまりメンドー臭くないように見えます。ですので「備えない防災」となり「防災は大変、専門的でメンドー」という心のハードルが下がるわけです。
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被災地取材やNPO研究員の立場などから学んだ防災の知識や知恵を、コラム形式でつづります。
■五十嵐 信裕
東京都出身。1990年メ~テレ入社、東日本大震災では被災地でANN現地デスクを経験。報道局防災担当部長や防災特番『池上彰と考える!巨大自然災害から命を守れ』プロデューサーなどを経て、現ニュースデスク。防災関係のNPOの特別研究員や愛知県防災減災カレッジのメディア講座講師も務め、防災・減災報道のあり方について取材と発信を続ける。日本災害情報学会・会員 防災士。