「8月1日から日本に25%関税」からトランプ大統領の思惑を読み解く 専門家が徹底解説

アメリカのトランプ大統領は、8月1日から課す相互関税率を発表しました。日本や韓国には25%、ラオスやミャンマーには40%、さらにブラジルに対しては50%の関税を課すと発表。関税の引き上げによって、アメリカ国内は輸入品を中心に物価が上昇し、景気が悪化する恐れがあります。
しかし、その景気悪化こそがトランプ大統領の戦略かもしれないと指摘する声もあります。相互関税について、トランプ大統領はどんな思惑を持っているのか。第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣さんに見解を聞きました。
アメリカ経済を“冷やす”トランプ大統領の戦略

――トランプ大統領はこの関税で、アメリカ国内の景気を冷やす狙いがあるそうですね。
いま、アメリカ経済にとって最大のリスク要因は財政の悪化なんです。先般、国債の格下げがあったように。なんで悪化しているかというと、アメリカ政府の利払い費が増えてしまって、これを減らさなきゃいけない。そうなると、金利を下げますがそのためにはある程度、景気を冷やさないといけないんです。

ある程度の追加関税をやれば、トランプ大統領が考えているアメリカの製造業の復活という表向きの目的に加えて、適度に経済が冷え込めば、FRB(連邦準備制度理事会)も利下げしやすくなります。そして結果的に金利が下がり、アメリカの利払い費が減る、と。
経済回復のシナリオと中間選挙を見据えた動き

関税をした場合はおそらく、2025年の年末あたりに景気が悪くなると思います。そうなると今度はFRBが利下げしやすくなるので、2026年にかけては景気がまた持ち直してくるのではないでしょうか。
2026年11月にはアメリカの中間選挙があるので、おそらくそのタイミングまでにいったん冷やした景気をもう1度引っ張り上げて、中間選挙で勝つ。そうした思惑なんだろうと思います。

――第1次トランプ政権でも似たような状況がありましたね。
状況はまったく似ているんです。ただ、前回のトランプ政権では追加関税を始めるのが、今回よりも1年遅れたんですよ。2018年の頭から追加関税を始めたら、ちょうど中間選挙のときに景気が最悪になったんです。景気が悪くなったことで当時はアメリカのFRBが利上げしましたが、利上げを打ち止めて利下げ観測が強まって、翌年は景気が良くなりました。
第1次トランプ政権のサイクルを1年前倒しすれば、ちょうど2025年の年末に景気が悪くなり、2026年の年末の中間選挙で景気が戻る。その思惑でいまの政策をやっているんだろうと思います。

――現段階でアメリカの経済状況は、トランプ大統領の思惑通りになっていますか。
前回のトランプ政権のときもそうですが、実は関税を始めてもその年の前半はそんなに影響が出なかったんですよ。具体的に影響が出始めたのが、その年の後半。おそらく8月ぐらいにかけて、アメリカでは悪い経済指標が出てくるのではないかと思います。
トランプ大統領の思惑通り、早ければ2025年の秋あたりからFRBが利下げをすることになるのでは、と。そうすれば、アメリカの金利が下がり、政府の利払いも抑えられるという状況になるので。
今後、課した関税を元に戻す可能性も?
――第1次政権のときの関税率といまの関税率は違いますよね。そうすると、アメリカ経済がさらに悪化するということも考えられませんか。
もちろん考えられます。実は話は簡単で、前回に比べたら今回はより強烈な関税をトランプ政権に打ち出しています。おそらくトランプ大統領は、課した関税を元に戻す方向に動くと思います。
アメリカ経済も日本経済も、おそらく2025年の後半から2026年の前半ぐらいまでは厳しいかもしれませんが、2026年の後半あたりからはアメリカ経済も日本経済も、少し戻ってくるのではないかと考えています。
――追加関税の発動のタイミングは、予定通り8月1日になりそうですか。
そう思います。スコット・ベッセント財務長官が話していましたが、追加関税が延期になった最大の理由は、日本の参議院選挙。それを越えないと、なかなか合意できないと言っていました。
8月1日までには、何かしらの基本合意が出てくるのではないでしょうか。