
トイレが詰まるのはなぜ? メーカーに原因と対策を聞いてみた トラブルの背景に“心の病”も?

トイレは年々進化していますが、詰まるトラブルがなくなりません。詰まらせないようにするには。もし詰まったらどうするのか。「INAX」のブランドで知られる大手衛生陶器メーカー「LIXIL(リクシル)」に聞いてみました。
一方、トイレが詰まるほど流してしまう背景には、心の病が隠れているかも知れません。

LIXILトイレ・タイル事業部の伊藤祥さんによると、トイレが詰まる原因で多いのは「トイレットペーパー」「異物」「排水管内部の経年変化」です。
便器に水がたまっている奥には、U字型に曲がった水の通り道があります。
ここに水を張って「封」をすることで、下水の臭いをブロックしています。
一度にどれぐらい流せるの?

トイレットペーパーは、水の中でほぐれやすくなるように作られています。
しかし、水の通り道が曲がっている構造もあって、一度に流せる量には限界があります。
どのぐらいまでなら流しても大丈夫なのでしょうか。
国内で販売されるトイレの性能は、JIS(日本産業規格)で定められています。
様々な種類のトイレットペーパーがありますが、シングルペーパーなら、大洗浄は約5m分、小洗浄は約2m分まで流しても詰まらないようにすることが求められています。
LIXILの伊藤さんは「同僚に聞いてみたところ、1回で使うトイレットペーパーは1m~1.5mでした。通常の使用量の3~5回分ぐらいまでは一度に流しても大丈夫ということです」といいます。
トイレットペーパー以外に詰まる原因

トイレットペーパー以外に、トイレが「異物」で詰まる場合の多くは、紙おむつや生理用品など、水を含むと膨張するものを流してしまった時です。
また、胸ポケットに入れたボールペンなどを落として詰まりにつながることもあります。
便器の中だけでなく、そこから下水管につながる排水管で詰まることもあります。
下水管につながる排水管では、キッチンやお風呂の水も合流することがあります。このため、長く使われた排水管では、油汚れなどがたまって詰まってしまうことがあるそうです。
もし詰まったらどうする?

トイレが詰まってしまったら、どうすればいいのでしょうか。
詰まったものが水のたまった部分に見えるなら、棒状のものでかき出します。押し込むと、さらに奥で詰まってしまうこともあるので注意しましょう。
詰まっているものが見えなければ、ゴム製の「ラバーカップ」を使います。
ポイントは「押すのではなく、引く」です。
ラバーカップは、水がなければ役に立ちません。
バケツにくんだ水で、ゴム部分が浸かるぐらいの水を便器に張ります。多すぎるとあふれることがあるため、灯油の給油などに使うポンプで水量を調整します。
ラバーカップを、水がたまっている部分に静かに押し付け、密着させてから素早く引っ張ります。
ただ、ラバーカップを引っ張った時、便器の水が床や壁に飛び散ってしまう恐れがあります。
床や壁が汚れるのを防ぐため、床に防水シートを敷きます。
さらに、穴を開けた透明なシートにラバーカップの柄を通し、便器全体をシートで覆うようにするのがおすすめだといいます。
自動洗浄に注意、水栓を閉めて

また、「作業の時は水栓を閉めてほしい」といいます。
最近は自動洗浄のトイレが増えていて、詰まりが取れる前に勝手に水が流れてあふれてしまうことを防ぐためです。
自動洗浄が働いたり、水がかかって漏電したりするのを防ぐため、電源プラグを抜いておくことも大事です。
詰まった原因のものが出てきたら、ゴム手袋を着けて取り出しましょう。
まだレバーを引いて水を流すことはせず、バケツなどで少しずつ水を入れ、詰まりがなく水が流れることを確認してください。
こうした方法で解消しない場合、LIXILは「お買い求めの取扱店またはLIXIL修理受付センターへ依頼してください」と呼びかけています。
水道工事業者などに依頼する方法もありますが、国民生活センターによると、「格安」をうたう業者から高額な修理費を請求されるトラブルも起きています。
慌てずに複数社から見積もりを取るほか、住宅の管理会社に相談したり、地元の自治体に指定水道工事業者を聞いたりするのも一つの方法です。
自己流の「節水」に注意
温水洗浄や温風乾燥、脱臭、自動洗浄…トイレには様々な機能が登場していますが、節水も進んでいます。
LIXILによると、1990年代初めごろまでは大洗浄で1回13~16リットルの水を使っていました。
その後、環境・省エネ意識の高まりとともに節水が進み、現在では大洗浄で5~6リットル、小洗浄で4リットルほどになっているそうです。
最少限の水で排水管までしっかり流せるようにしているため、一部で「節水対策」として紹介されていることはしないでほしいといいます。
便の多い少ないにかかわらず、大は「大洗浄」で流してください。
小洗浄ばかり使っていると、下水管まで流れずに排水管に残ってしまい、詰まりにつながる恐れがあるということです。
また、水を入れたペットボトルをタンク内に入れると、水を流す装置が故障して水が出なくなったり、逆に水が止まらなくなったりする恐れがあるそうです。
「強迫性障害」の可能性も

一方で、トイレが詰まってしまうほど大量のトイレットペーパーを流してしまう背景には、「強迫性障害(強迫症)」という心の病があるかもしれません。
強迫性障害とは、嫌な考え(強迫観念)が頭を離れなくなり、それを打ち消す行動(強迫行為)がやめられない悪循環となる病気です。
強迫観念には「手や体が不潔ではないか」「病気に感染するのではないか」といったものがあります。ほかにも、「鍵をかけ忘れたのでは」「コンロの火を消し忘れたのでは」といったものもあります。
「きれい好き」や「こだわる」は何も問題ではありませんが、強迫性障害はそれが極端になって生活リズムが崩れ、日常生活に悪影響を及ぼします。
名古屋市瑞穂区にある「あらたまこころのクリニック」の加藤正院長(67)は、強迫性障害の症状について、こう話します。
「清潔か不潔か、安全か危険かなどが『0か100か』になってしまう。自分でもばからしいとわかっているのに、すぐ不安になり、1時間以上も手洗いや確認作業などを繰り返してしまうのです」
強迫性障害のサイン
加藤院長は、次のようなことに心当たりがあれば、強迫性障害の可能性があるといいます。
1. トイレットペーパーやティッシュを大量に使う
2. 手を不自然なほど長時間洗う
3. 血液や排泄物を過剰に怖がる
4. 誰が触ったかわからないものに触れない
5. 他人に絶対に触れさせないものや場所がある
6. 鍵やガスコンロなどを何度も確認する
7. 行動を始めるのにとても時間がかかる
患者だけでなく家族までこうした行為に巻き込まれ、大きな負担になっていることも問題になっています。
加藤院長によると、強迫性障害はうつ病や発達障害、統合失調症などと併発することが多いそうです。
患者の60~80%は薬による治療で改善がみられるといいますが、薬で治らない場合は、臨床心理士らと連携した「認知行動療法」が必要だといいます。
認知行動療法とは、患者が自身の症状を整理して原因を把握し、同じことを繰り返さなくても不安をコントロールできるように練習することです。
加藤院長は「強迫性障害に特化した認知行動療法は、保険診療のクリニックでは難しい。当院では、公認心理師らが運営する『BTC(行動療法カウンセリング)センター なごや』などに依頼しています」と話しています。
「BTCセンター なごや」(名古屋市)によりますと、患者や家族による自助グループも、名古屋をはじめとする各地で活動しているということです。
(メ~テレ 山吉健太郎)





