
爆速で湯が沸く「アウトドア用の鍋」1個1万円以上と高額も大ヒット 作ったのは「削り」専門の町工場

「はやくお湯が沸くアウトドア鍋」がインターネット上で話題となり、販売数を伸ばしています。開発したのは、金属の「削り」専門の町工場。赤字脱却への逆転ヒットとなりました。

近年、人気が高まっているアウトドア。愛好者の間で、“はやく沸く鍋”が話題に。同じ素材・大きさの一般的な鍋と比べると、600ミリリットルの水が2分少々で沸騰しました。一般的な鍋は3分半ほどかかっています。さらに、気温の低い過酷な環境でも、少ない燃料でお湯が沸かせるといいます。
この鍋、発売されるとネット上で「爆速沸騰クッカー」と話題に。価格は一般品の5倍以上、1万円を超すにもかかわらず、これまでに1500個以上が売れたといいます。
切削加工専門の町工場が製作

鍋を作った会社は、栃木県真岡市にあります。創業52年目の田村工機。金属を削る切削加工専門の町工場です。開発したのは専務の戸頃さん。はやく沸く秘密は、鍋の底にあるといいます。

底についている、108個の突起。これで火が当たる面積が広くなり、より多くの熱を逃さず取り込みます。効率よく加熱し、はやく沸かせるのです。
突起の加工には、滑り止めのデコボコをつける技術を応用。自慢の「削る技」を、「見た目重視」でデザインした突起でアピールします。
職人の技術と経験値が必要な作業

材料は、重さ2キロのアルミの塊。機械で中を全部くりぬきます。一番薄いところは0.5ミリです。
田村工機 戸頃 智浩専務:
「刃物がどうやって削っていくか。技術と経験値が必要で、それがないときれいには仕上がらない」

田村工機は50年以上にわたり切削加工を手掛け、カメラレンズの接続部分や、望遠鏡に取り付ける部品など精度の高い部品を作ってきました。しかし、立場は「大手の下請け」。特定の顧客に依存し、値下げを断れませんでした。
祖父がつくった工場で職人として働いていた戸頃さん。コロナ禍で経営が厳しくなった頃、趣味の登山で使えるオリジナル商品を作れないかと考えたのです。

田村工機 戸頃専務:
「最初は、煙突の穴開けたんですよね。結果全然遅かった」
試作を繰り返したどり着いたのが、長年培った削りの技を生かしたデコボコでした。
売り上げは1億円を突破! コロナ禍の赤字を脱却

鍋以外にも、熱を取り込みやすいよう、分厚く作ったフライパンや、余った燃料を密閉し再利用できる小型コンロなどを加え、アウトドア用品ブランド「TMR industries」を立ち上げました。
アウトドア用品が売れたことで、売り上げは1億円を突破。本業で過度な値引きに応じる必要がなくなり、コロナ禍の赤字から脱却できました。

日本経済新聞社 宇都宮支局 三好博文記者:
「日本の町工場のものづくりは、商品力だけを押し出す『プロダクトアウト』の思考に陥りがちです。ただ商品が売れるためには、市場が求めるものを作る『マーケットイン』の発想が重要です。
今回のアウトドア製品は、まさに趣味の登山で、いちユーザーとして感じたニーズと、長年培ってきた削り加工の技術を掛け合わせたことが、ヒットにつながりました。発想の転換ひとつで、自社の強みを生かして大きく成長することができます」

田村工機 戸頃専務:
「日本って海外からの旅行者非常に注目されているじゃないですか。海外の方が求めている文化の先に、職人技術が将来、来たらいいなと。こんなのあるよ、こんなの作っているんだ、と伝えたいですね」