
オーダーメイドのひな人形に注目集まる 伝統工芸士・加藤夫妻が手がける型破りなひな人形 遠方からも来店

ひな人形づくりが盛んな名古屋市守山区。約35年前は守山区内だけで20社ほどのひな人形の会社が営業していましたが、少子化の影響から業界は衰退。2024年4月には守山区・志段味にあった会社も廃業し、現在は小幡にある「加藤人形」が守山区の最後の1社となりました。
加藤人形は、業界では型破りといわれるオーダーメイドのひな人形を受注。愛知県内のみならず、遠方からも客が訪れるほど人気となっています。「伝統は革新である」と語る、加藤人形の加藤さんを取材しました。
名古屋市内にわずか3人の伝統工芸士

「加藤人形」の店主を務める加藤高明さんは、ひな人形を専門につくる人形師。妻の真由美さんとともに、わらや和紙、絹、天然綿など江戸時代の材料と伝統的技法でつくられる「名古屋節句飾」を35年にわたってつくり続けています。

江戸時代から続く「名古屋節句飾」は、国の伝統的工芸品として産地指定を受けており、加藤さん夫妻も2人そろって伝統工芸士として認定を受けています。「名古屋節句飾」の職人として伝統工芸士に認定されているのは、名古屋市内にわずか3人。そのうちの2人が加藤さん夫妻です。
業界では型破り オーダーメイドのひな人形を注文可能

加藤人形が注目される理由は、業界では型破りといわれるオーダーメイドを受注していること。訪れる客の100%がオーダーメイドです。200種類以上の生地の中から、人形に着せたい着物を客が選び、その生地を使って仕立てています。
店の棚を見せてもらうと、ひな人形用の生地がたくさん保管されていました。ほとんどの生地が絹製で、高いものでは30センチで1万円するものもあります。棚全体は「フェラーリ1台は買える」ほどの価格に。時には、着物用に仕立てた帯を切って、ひな人形に使うこともあるといいます。

高明さんによると、ひな人形の金額は使う生地によって変動するものの、概ね30万円程度の予算で注文する方が多いとのこと。最大で80万円程度となる高級なひな人形ですが、高級生地を多数そろえてオーダーメイドで注文できることが口コミで伝わり、遠方からも多くの客が来店しています。

「最高のひな人形を届けたい」。その一心で、繁忙期には朝8時から翌朝4時までひな人形づくりを行うこともあるそう。客を思う真心と精緻な技術から、数々の美しいひな人形が生まれています。
勤務時間を終えたあとも、真由美さんは人形づくりに熱中します。仕事とは別に大正時代に流行った「文化人形」をつくるのが何よりもの息抜きです。ちなみに夫の高明さんは“生地オタク”。仕入れ先で素敵な生地に出合うと、目がキラリと輝くそうです。

「まだまだやれることはいっぱいある」「新しいものをつくってこそ伝統」と話す高明さん。夫婦で好きなことを追求しながら、新たなひな人形づくりに挑戦し続ける姿は、まさに「伝統は革新」を体現しています。