
“さかさま不動産” 大家が借り手を選ぶ空き家活用で…「思いもよらないマッチング」

人口減少を背景に増え続ける空き家。それをユニークな発想で再生する取り組みがあります。人の思いをつなぐ空き家活用とは。現場を取材しました。
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20年で160万軒増加した「空き家」
日本全国で増え続ける空き家。放置されている物件は今や385万軒。この20年で160万軒も増えました。人口減少で「ダブつく」家。それをユニークな発想で再活用する取り組みがあります。
4月1日、名古屋市南区の路地裏にオープンした駄菓子屋さん。店長の大矢康子さんは保育士で3人の子どものお母さんです。子育てで孤独を感じたことをきっかけに地域でつながれる居場所を作ろうと、築67年の空き家を借りて、この店を始めました。
アイデアを思いついた時、困ったのが物件探し。地元で安い空き物件を探しましたが、その情報がなかなか見つかりませんでした。
「思いもよらないマッチング」
(大矢康子さん)
「建物をあたたかい場所にしたいとかこだわりがあった。(最終的に)思いもよらないマッチングで素敵な場所に巡り合えたので、“さかさま”さん(不動産)じゃなかったら見つからなかったのかなと思います」
「さかさま不動産」。名前も変わっていますが、何より仕組みが従来の不動産仲介とは全く違い、物件を持つ人が借り手を選ぶ。だから「さかさま」です。
(“さかさま不動産”を運営 水谷岳史代表)
「挑戦したい人の情報を流通させて、大家さんが選ぶ仕組みを作りたいと思った。(持ち主は)家を大事にしてくれる人に貸したいけど(借り手を)選ぶことが難しいのが課題の根本」
サイトを見て「親子の居場所を作りたい」という大矢さんの思いに共感したのが、空き家の持ち主・山口一輝さん。大矢さんと面識はありませんでしたが、偶然にもご近所同士でした。
(山口一輝さん)
「いつ壊してもおかしくないタイミングだった。めちゃくちゃ嬉しい、かなり嬉しいですね」
Q.大矢さんと接してどう?
「エネルギーがすごくてもう…頼りがいがある地域的にも。応援できることは力になりたい」
空き家を生かしたのは、人と人をつなぐ思いです。
(大矢さん)
「地域の方が気軽に集まったり、おしゃべりしたり、一緒に遊べる交流の場として、育っていってほしい」
ミートパイに魅了された女性「すごく暑い街で…」
“さかさま”がつないだ「縁」は他にも。岐阜県多治見市に住む田口絵梨さん(32)。オーストラリアの旅で出会ったミートパイに魅了され、1年半ほど前からアレンジして販売しています。
これまで駅前のマルシェなどに出店してきましたが…
(田口さん)
「多治見はすごく暑い街なので、夏冬でお客様が来られない状況。『店舗が欲しい』とその時にすごく思った」
店舗を構えたいと30軒あまりの物件を回りましたが条件に合わず、最後に「さかさま不動産」で出会いが。
35年の歴史ある喫茶店で“理想の出会い”
多治見市内にあるレトロな喫茶店。マスターの深萱英史さんは71歳。体調不良に悩まされていて、3月いっぱいでの閉店を決めていました。
(深萱さん)
「手足がしびれて文字が書けない。だからフライパンが持てないし、とてもじゃないけど(店を)続けられない」
店を閉じた後どうするかは白紙でしたが、「地域を思ってくれる人に次を託したい」と思い立ち、さかさま不動産で理想の借り手に出会ったのです。
平成元年に開業し、長く地域に愛されてきたマスターの店。店の味わいはそのまま残し、田口さんは9月のオープンを目指します。
(深萱さん)「本当に色々あって、あっという間の35年」
(田口さん)「これからスタートです、私は」
(深萱さん)「引き続き35年」
ところが、最後の営業日。店にマスターの姿はありませんでした。
「きっと大丈夫」
(田口さん)
「改めてここに来て『え、本当に?』っていう信じられない気持ちが大きくて、でもなんかそれと同時に、オーナーさんが35年間ここで過ごしてきたっていうのは本当に間違いなくて、まるでここで生まれて、ここで最期天に旅立った」
当日の朝、店の中で倒れているのが見つかり亡くなったのです。71歳でした。最後まで、自分の店が田口さんのミートパイ屋さんに生まれ変わることを楽しみにしていたというマスター。
(田口さん)
「最期を送るように空が晴れた。お疲れ様でしたって言えないのは残念だけど、私は背中をすごく押されてるなと感じます。きっと大丈夫だと思います」
建物に刻まれた人の営みや思い。それも含めて引き継いでいくことは、空き家を活かす1つの答えなのかもしれません。