国内初、農業に特化した生成AI 豊富な知識で気軽に相談 担い手不足の解消を目指す

様々な分野で活用が進んでいるAI技術。いま、農業の分野に特化した生成AIが開発され、三重県で国内初となる実証実験が進められています。人材不足に直面する農業の一助になることが期待されています。
三重県松阪市にある三重県農業研究所は、コメやイチゴの品種改良や、農作業の効率を上げる技術開発などを行っています。
農業の技術指導を行う「普及担当者」の秋元勇樹さんの手にはスマートフォンが。
「三重県が開発した『かおり野』という品種のイチゴの育苗の時期なのですが、この育苗のポイントについて生成AIで質問しているところ」(秋元さん)
チャットを返信してきていたのは、なんと「生成AI」。
茨城県つくば市にある国の研究機関が開発したもので、農業に関連する膨大な量のデータを学習させ、情報を処理・判断できるといいます。
「理想的な育苗の苗の葉の長さとか色味とかが回答として出てきます。(従来は)イチゴに関する専門書を見ながらの情報集めだったが、スマートフォン1台ですぐに情報が手に入るので便利になっています」(秋元さん)
農業に特化した生成AI、イチゴで実証実験

農業に特化した「生成AI」は国内初。三重県農業研究所では、この生成AIでイチゴの栽培を対象にした実証実験を行っています。
開発の背景にあるのは「農業知識の習熟問題」です。
「農家から受ける質問内容は病気や虫に関することが多く、特に病気は見た目だけでは分かりにくいものもあり、そういうところは苦労します」(秋元さん)
農業の担い手不足が進む中、新たに農業に参入する人にとっても壁になる「農業知識の習熟」。
専門性に加え、気候や地域性に合わせた臨機応変な対応が求められるため、幅広い知識が必要となります。
農家は指導員を頼り、指導員は状況に合わせて必要な情報を膨大な資料の中から探していたため、時間も手間もかかってしまうのが現状です。
「(若手が)ベテラン普及指導員からOJT(実地研修)のようなかたちで現場で学ぶのが非常に重要かなと思うが、なかなか時間がとれなかったり、直接聞けないので、より詳しい情報が出にくいことはあります」(三重県農業研究所 主任研究員 杉村安都武さん)
実証実験が進む「農業用生成AI」は、情報や知識、技術を補完する役割になりえるとして、すでに大きな期待が寄せられています。
「数ある情報から関連する可能性のある情報をいくつかピックアップして、若い普及指導員が問題の発生要因として1つ2つしか思いつかないところを、3つ4つと増やしてくれることを生成AIに期待しています」(杉村さん)
「普及指導員がより高度な問題に集中できる」

今回、この生成AIを開発した担当者の1人は、「普及指導員の仕事が効率化され、より高度な問題に集中できるようになる」といいます。
「気候変動などによる温暖化対策があり、現場でも今までにない未曽有の問題が起きると、新しい取り組みが必要になってくる。その場合、普及指導員も新しい情報を常にアップデートしながら対応していく必要があるが、今までにないような対応をするために力を入れていく」(農研機構 データ推進室長 米丸淳一さん)
また、高齢化などにより農業従事者が減少している中、新規参入者を増やすための手助けの一つになるのではと話しています。
将来は「農家自身が生成AIで問題解決」

将来的には、農業従事者自身が簡単な問題を生成AIを使って直接解決できるようになることを目指しています。
「新規参入者にとって情報が足りないというのが一番の問題。普及指導員が新規参入者に個別に指導するが、それ以外にちょっとわからないことがあった時に、簡単な質問を気軽に聞けるツールがあると非常に便利」(米丸さん)
現在は三重県のみで実証実験が行われていますが、今後は対応できる作物を増やし、全国で展開していきたいとしています。
生成AI、こんな分野にも

生成AIは、農業だけではなく、様々な分野にも活用されています。
北海道大学大学院の川村秀憲教授によると、例えば楽曲を作ってくれる生成AIもあります。
曲のイメージや歌詞のフレーズを入れるだけで、作曲・作詞ともに自動で作られ、自分だけのオリジナルの楽曲ができるという生成AIもあります。
さらに、カーナビにも。
高級自動車メーカーでは「コンシェルジュサービス」といわれるような、問い合わせると近くのレストランや観光スポットを提案して案内してくれるサービスがありますが、より簡単に問い合わせができるようにするためにカーナビに生成AIを組み込む動きもあるということです。
将来的には、冷蔵庫にも生成AIを搭載し、中身をチェックして、残り物で作れるレシピを音声で教えてくれるようなものも誕生するかもしれないということです。