トランプ次期大統領の関税引き上げ方針は日本企業への打撃が大きい可能性 「またトラ」確定で専門家解説

アメリカ大統領選挙でトランプ前大統領の返り咲きが決まり、「またトラ」が確定。経済政策への期待感から、ニューヨーク株式市場のダウ平均株価は連日、最高値を更新しています。日経平均株価も、トランプ氏の優勢が伝えられ始めた11月5日に急上昇。12日まで3万9000円台を維持しています。
トランプ次期大統領の経済政策が日本の経済に与える影響について、みずほリサーチ&テクノロジーズのチーフ日本経済エコノミスト、酒井才介さんに話を聞きました。
トランプ次期大統領の経済政策

トランプ次期大統領の主な経済政策は、関税や減税、エネルギーなど、さまざまな分野に影響を及ぼします。中でも特に愛知県への影響が考えられるのが関税。現在、アメリカの輸入額に占める関税額の割合は、平均で3パーセント前後です。
これに対し、トランプ次期大統領は、すべての国からの輸入品について10%から20%に関税を引き上げる方針を示しています。
関税10%引き上げの場合、日本のアメリカ向けの輸出が約10%減か

――関税の引き上げは、日本企業にどのような影響を与えると思われますか。
「日本の輸出産業にとっては大きなダメージとなると考えられます。仮に関税が10%まで引き上げることになると、日本のアメリカ向けの輸出が1割程度減ってしまうという試算もあります。さらには、アメリカに拠点を置く日本企業(以下、在米日本企業)にとっては、原材料を海外からアメリカに輸入で調達するときのコストも上がってしまいます。
在米日本企業は製品の原材料のうち、5割程度海外からの輸入に頼っているため、特に影響が大きいと考えられます。輸入コストの上昇によって、在米日本企業の経常利益はおよそ22兆円程度、マイナスになってしまうと試算されます」
――愛知県は自動車の輸出産業が非常に盛んのため、影響は計り知れないですね。
「中部地方は、自動車産業が盛んです。アメリカとの貿易面で非常に結びつきが強い産業なので、特に影響が大きいと考えられます」
法人税の減税や規制緩和で景気がプラスになり得る可能性
――トランプさんの当選から、日経平均株価が上昇傾向になっているのはなぜでしょうか。
「トランプ次期大統領が実施を掲げている、法人税の減税や規制緩和。こうしたアメリカの景気にプラスになり得る政策が、マーケットに効果をもたらしていく面が強いと思います。
例えば、トランプ次期大統領はアメリカ国内で製造拠点を持つ企業の法人税率を、現行の21%から15%まで引き下げると言っています。仮にこれが実現すると、在米日本企業、製造業を中心に経常利益は大体2.5兆円程度プラスの効果があると試算しています。
こういった政策がマーケットに効果をもたらしているといえそうです」
アメリカ国内の輸入物価が上がり、インフレを招く

――ただ輸出産業にとって、そもそも1割減の非常に大きなマイナス要素があり、先ほどの在米日本企業のマイナス、輸入コストが高くなることを比べてみると、マイナスのほうがかなり多いと思います。それでも良い受け止め方をされているのはなぜでしょうか。
「実は現時点でマーケットでは、トランプ次期大統領がそこまで大幅な関税引き上げに踏み切らないのではないかとの見方があります。実際、これだけ関税を大幅に引き上げてしまうと、アメリカ国内でも輸入物価が上がり、国内のインフレを招いてしまいます。その場合、アメリカの中低所得者を中心に生活を圧迫させてしまうことが懸念されます。
トランプ次期大統領も、公約では言っていますが、実際には現実的な落としどころを探り、そこまでの大幅な関税引き上げに踏み切らないのではないかとの見方があります」
「やらないだろう」をやりかねないのがトランプ次期大統領

「ただ、世間がそう言って『やらないだろう』と思っていることをやりかねないのがトランプ次期大統領の怖いところです。そのため、実際に就任してみないとどうなるのか分からないという面はあります。2025年1月20日の就任初日以降も、引き続き動向を見ていく必要があるのではないかと考えています」
――1月20日次第では日本・愛知県にも、先ほどの関税引き上げのようなマイナスの経済的な影響が出てくる可能性はあるのですね。
「そうです。実際にどのような政策を打ち出すか、まだ不透明感が強い状況です。仮にこれまでの選挙戦の中で言っていたぐらいに、関税を引き上げることになれば、日本経済、あるいは株価にもマイナスの影響が発生してもおかしくないと思います」