割れた備前焼の陶片が食器などに生まれ変わる「再生備前」 ヒントは「何も塗られていない」レンガに

岡山県が世界に誇る伝統工芸品「備前焼」。一度割れてしまうと、なかなか使い道はありませんでした。それが今、割れた備前焼の陶片から新たな商品を生み出す取り組みが始まっています。

岡山市郊外にある文具や雑貨を売る「うさぎや岡山店」で人気を集めているのが、焼きムラなど自然な模様が特徴のマグカップに、ロックグラスなどの陶器のシリーズ。「再生備前」といわれる焼き物です。

そもそも備前焼は、岡山を代表する工芸品で千年近い歴史があります。1200度近い高温で1週間以上焼くことで、独特な色合いや模様が生まれる「窯変」が特徴です。ただ、その製作過程で1割から2割、傷が出たり割れたりした「陶片」が出ます。
集めた陶片を細かく粉砕してリサイクル

備前焼に使う土は貴重ですが、305軒ある窯元から年間約10トンが処分されます。そんな中で運び出された陶片が集められ、最小、直径40マイクロメートルまで細かく粉砕し、新しい土と水を混ぜて粘土状にします。この、リサイクルした土を使ったものが「再生備前」です。
カップや豆皿など50種類を、インターネットや首都圏の百貨店などで販売しています。2021年の発売以来売り上げは拡大。2022年11月期で約1000万円だった売上高は、2025年11月期は約1500万円となる見通しです。

事業を立ち上げたのは、the continue.の社長・牧沙緒里さん。2021年に起業しました。牧さんは以前、ほぼ100%リサイクルが当たり前の「耐火レンガ」の会社に勤めていました。ある時、備前市で山積みの陶片を目の当たりに。そして「何も塗られていない」というレンガとの共通点に気づいたのです。
the continue. 牧 沙緒里社長:
「うわぐすりがかかっているものを、もう1回、粉砕すると焼き直したときに物質の溶けていく温度にすごく差が出てくるので、それが不具合になったりします。ですが、備前焼はもともと単一の粘土だけでできているということで、リサイクルしたときのそういったトラブルは出にくいだろう、と」
JRの駅前でも陶片を回収

釉薬を使わない備前焼だからこそ、リサイクルできると考え、起業した牧さん。備前市や陶芸家組合と連携し、陶片を回収する仕組みを構築。さらに、JRの駅前に回収ボックスを設置し、一般家庭から出る破片も集め始めました。

ただ陶片のリサイクルで備前焼を作ると、通常より1割ほどコストが上がります。そこで、ろくろではなく工場で型にはめて大量生産。1つ数千円と買いやすい価格にできました。ここにきて、SDGsの観点から、法人需要も生まれています。
高級ホテルで採用されたほか、ノベルティ制作の引き合いも。そして、新たな成長に向けた動きもあります。
「再生備前」が新しいイノベーションを起こすきっかけに

日本経済新聞社 岡山支局 中野颯太記者:
「日本の伝統工芸品は国内では日用品とみられがちで、値付けが抑制的な面があります。the continue.は再生備前を作家の窯で焼いたアートとしても売り出し、来春にはイタリアで展示・販売する予定です。より高く価値を評価してくれ、成長性もある海外市場で知名度を高めるきっかけとなるかもしれません」

the continue. 牧社長:
「『本来の備前焼とは違うもの』とは何かを模索する。産地のみんなで新しいイノベーションを起こすきっかけとして(再生備前)を使っていく」