世界での「日本酒ブーム」が後押し ひとつ4180円ながらヒットした「升」 人気の秘密は「特殊加工」

コメの量を計ったり、鏡開きで酒をふるまったりなどに使われる「升」。国内で流通している升の8割を生産している岐阜県大垣市で、1個4000円を超える升が生まれました。一般の升の約10倍の価格ですが、発売から3カ月で200個を完売するヒット商品となっています。人気の理由とは?

大ヒット商品(右)を手掛けたのは、大垣市にある児玉工業所です。一般的な升(左)の半分ほどのサイズしかありませんが、飲み口が薄くなっていて飲みやすく、日本酒の香りが楽しめるような設計になっています。

升には釘などを一切使いません。湿気を吸って膨張する木の特性を生かし、100分の1ミリの精密な加工で隙間なく板を組む「あられ組み」といわれる技術で作られます。しかし、板の厚みが薄くなればなるほど、問題も生まれます。

例えば、食器洗浄機に400回かけた升。水を入れると、つなぎ目から水が漏れてしまいました。一方、児玉工業所の升は水が漏れません。実は升に、特殊な加工が施されているからなんです。

ガラスの原料の微粒子を木の繊維の隙間にしみ込ませると、それがガラスに変わり、升の強度が上がります。玻璃塗(はりぬり)と呼ばれるこの技術、異業種との共同開発で生まれました。

児玉工業所 児玉政重社長:
「もっと付加価値がつきました。これまでにないような升を作りたいと思って、良い業者がないか探していたところ、『愛和ライト』(愛知県春日井市)をご紹介いただきました。薄口にガラスコーティングを加えて、まずは商品化からこの玻璃塗は生まれました」
需要が減り、市内のメーカーは2社に

大垣市は国内の升の生産の8割を担う一大産地ですが、生活様式の変化で需要は減少。市内のメーカーも2社にまで減っています。
児玉工業所はもともと板金工場でしたが、廃業した老舗メーカー「衣斐量器」から技術を引き継ぎました。
日本酒の対米輸出額は、10年で約3倍に拡大

「市場自体は減っているけれど、少しでも挽回したい」。升の復権にむけ児玉社長が目を付けたのが、海外からの日本の「SAKE」ブームでした。日本酒の対米輸出額は、この10年で約3倍に拡大。そこに活路を見いだしたのです。
さらにユネスコの無形文化遺産として「日本の伝統的酒造り」が登録されたことで、より注目を集めています。

児玉工業所 児玉社長:
「海外市場に目を向けた理由は、日本での升の価値が低すぎるからです。しっかり評価して、扱ってくれるところで売っていきたいと考えました」

2024年にアメリカで開かれた日本酒のイベント「Taste of Japan」では、玻璃塗の升を計量器ではなく“食器”として売り込みました。
アメリカ在住のバイヤー
室井絢子さん:
「(升の)反応が良かった。アメリカではほぼ食洗機を使うので、(玻璃塗は升をアメリカで広める)キーポイントになります」
児玉工業所 児玉社長:
「升の認知が幅広く勝ち取れれば、きっと海外の売り上げは増えると思っています」

日本経済新聞社 名古屋支社 川路洋助記者:
「ガラスコーティングという技術は 春日井市の木材加工メーカーの愛和ライトが持っていました。両者を結び付けたのが、メインバンクである大垣共立銀行です。地方銀行が媒介となり、伝統技術に新たな付加価値を結び付けました」