
名古屋城を焼き尽くした空襲から80年 街を爆撃したB29搭乗員の息子が探し求める戦争の記憶 「なぜ父は戦争を語らなかったのか…」

472機ものアメリカ軍機が街を爆撃し名古屋城が燃えた、80年前の5月14日。当時、出撃していた搭乗員の息子が名古屋の街を訪れ、“父は何を思っていたのか”を問いかけ続けています。
戦争の痕跡は今も…名古屋を襲った空襲の記憶

日本各地の上空に現れ、街を焼け野原にしたB29。多くの命が失われ、人々が恐れた飛行機です。
名古屋市千種区にある千種公園には、B29が襲来した痕跡が今も残されています。


アメリカから来日したボブ・フレミングさんは、公園である写真を見つけました。そこに写っていたのは、80年前、B29が投下した焼夷弾で焼け落ちた名古屋城です。
ボブさんの父・ロバートさんは、80年前の5月14日、B29の搭乗員として名古屋に出撃していたのです。
第二次世界大戦で63回もの空襲を受け、8000人近くが犠牲になった名古屋。ボブさんは「父が語ろうとしなかった」という戦争の記憶を探っていました。
「なぜ父は…」答えを探し自問自答を続ける息子

ニューヨークを拠点にアーティストとして活動するボブさん。近年、モチーフにしているのが名古屋空襲です。
『Run Run Nagoya』という作品では、爆撃をうけた名古屋の焼失地図の上に、空襲から逃げ惑う親子の版画をのせました。

こうした作品を作るきっかけは、父親の遺品整理をしていた際に見つけた大量の資料でした。戦闘記録には日本各地の地名が並び、名古屋空襲にも6回にわたって関わっていたことがわかりますが…
ボブ・フレミング さん(75):
「父と戦争について話したことがなかったんだ。私の年齢から考えると(戦後)父のしていたことと戦争を結びつけることは難しくて…だから、映画を作って父のことを理解したかった」

ボブさんが作ったのは名古屋空襲を題材にした映画。法廷を舞台に自ら一人二役を演じ、父が戦争にどう関わったのか尋問していく設定です。タイトルは、『しがみつき 燃え続ける 名古屋を消す』。
ボブ・フレミング さん(75):
「『名古屋を消す』には単純に消すという意味だけでなく、(名古屋空襲を)“なかったことにする”という意味も込めています」
父が戦争を語らなかった理由は…? 答えが出ないまま、自問自答を続けます。
街への攻撃を命じられ…父が手紙につづった本音

第二次世界大戦は、アメリカではどのように受け止められているのでしょうか。
戦争を経験した軍人の調査を25年以上続ける研究者は、アメリカ国民が一つのチームとなって成し遂げたという意味で“良い戦争”と捉える意見がある一方、ほとんどの退役軍人は戦争について語りたがらなかったと言います。
米軍人を研究 ビル・べーゲルさん:
「仲間が傷つけられ、殺されたりするのを見たり、非常に残酷で暴力的なことを強いられることもあった。あるB29の搭乗員は(日本を)低高度で飛んでいたときに人が焼ける臭いがしたと、その記憶がずっと残っていると言っていました」

父・ロバートさんにとっても、戦争は思い出したくない記憶だったのでしょうか。戦時中、ロバートさんが家族に宛てた手紙には、当時の赤裸々な気持ちがつづられていました。
【ロバートさんの手紙】
「私が取り組んでいる飛行は、かなり過酷な任務です、父さん。率直に言って、自分が何に巻き込まれるのか、ほとんどわかっていなかった。わかっている人はほとんどいなかった。この任務で、友人を失うことがどんな気持ちかわかるようになった。ある日は一緒にいたのに、次の日にはいなくなっている。そしてそれは、私にも起こりうるのだ」
ロバートさんが命じられたのは、市民が暮らす街への攻撃でした。

ボブさんが「父自身は認めないだろうけど(戦争への参加に)罪の意識があったと思います」と話すように、戦後、弁護士として活躍したロバートさんはベトナム戦争に反対し、徴兵を拒否した若者の弁護をしていたといいます。
アメリカ視点の戦争映画を観て…94歳の女性が語った思いとは?

名古屋・名東区の「戦争と平和の資料館 ピースあいち」で行われた、ボブさんを招いての上映会。アメリカ側から見た戦争の映画は、どう受け止められたのでしょうか…。

上映後、ボブさんに話しかけたのは、94歳の渡辺稔子さんです。
14歳のとき、名古屋にあった自宅が空襲で焼けてしまい、母の実家で学生時代を過ごしたという渡辺さん。腹立たしい思いが残っていましたが、ボブさんに会って気持ちに変化があったといいます。
渡辺稔子さん(94):
「わだかまりというほど大げさじゃないけど、溶ける思いというのかな。戦争はいやだって、二度といやって。世界中がそんなことをしたらだめ」

戦後80年。決して戦禍の記憶をなかったことにはしない。その思いが、平和につながっていくのかもしれません。
「戦争と平和の資料館 ピースあいち」では、ボブさんの作品やロバートさんの戦闘記録などを展示した企画展「名古屋空襲展2025『80年前、父は名古屋を焼き尽くした―B29搭乗員の記録から』」を、5月17日(土)まで開催しています。