【参院選/それってほんと?】“外国人政策”が消費税を上回る争点に? SNSで急増する外国人批判 拡散される誤情報に困惑する当事者たち

参議院選挙を前に、SNS上で「外国人」に関する投稿が急増し、消費税などの従来の争点を上回る注目を集めています。しかし、その中には「低賃金で働かされている」「犯罪が急増している」など、事実と異なる情報も。なぜ、外国人に対する否定的な情報が広まっているのでしょうか…。
“外国人政策”の投稿が急増 各政党の主張は?

今月20日が投開票日の参議院議員選挙。SNSの影響力が、大きくなっていると言われる中、あるキーワードの投稿が急増しています。それは、外国人についての投稿です。
SNSのXで、「参院選」と何のキーワードが一緒に投稿されているか、投稿数を示したグラフを見ると、急激に伸びているのがわかります。

当初、最大の争点とされていた消費税を大きく超える投稿数になっていて、有権者の中で外国人政策への関心が高まっていますが、各政党はどんな主張をしているのでしょうか。
▼自民:「違法外国人ゼロ」を目指す
▼立憲:「多文化共生社会基本法」制定
▼維新:外国人比率の上昇抑制などを含む人口戦略を策定
▼国民:外国人の不動産取得や社会保障の運用について対策
▼公明:秩序ある「多文化共生社会」の実現、在留管理を強化
▼れいわ:低賃金労働力導入が目的の「移民政策」に反対
▼共産:日本人と同等の労働者としての権利を保障
▼参政:行き過ぎた外国人受け入れに反対
▼保守:入管難民法の改正と運用の厳正化
▼社民:多文化共生の社会を目指す
外国人をめぐる議論が高まっていますが、この状況を複雑な思いで見ている人達がいました。
心無いコメントに困惑する当事者たち「安いから外国人を雇うんじゃない」

三重県津市で、塗装職人として働く2人のカンボジア人。22歳のポット・ソチアットさん(あだ名・タカさん)と、23歳のニン・ソコットさん(あだ名・ジンさん)です。
雨が降ったこの日、2人は会社の作業場で先輩の職人と塗装の練習をしていました。3年前に日本に来たときは、仕事も日本語もわかりませんでしたが、今では一人前です。休憩中、先輩にわからない日本語を教えてもらうことも。

2人が働く塗装会社「日塗建」の職人は8人。そのうち半分がカンボジア人です。開発途上国などの人材育成のため、技術を習得してもらう「技能実習生」として来ました。日本では代表の朝倉さんが父親代わりです。
日塗建 朝倉達也 代表取締役:
「僕らもカンボジアに行って(タカとジンの)お父さんお母さんと会って、(僕が)日本で面倒をみるお父さんお母さんだよと伝えているので、自分の子どもとして同じように育てなくちゃいけないなという気持ち」
外国人雇用の背景にあるのは人材不足。朝倉さんは「今の日本人の若者たちがなかなか建設業界にこない」と話します。
厚労省が運営する職業情報提供サイトによると、おととしの全国の建設塗装工の有効求人倍率は6.68倍。1人の就職希望者に対し、6社以上が求人を出している計算です。

建設業界全体が深刻な人手不足となる中、「日塗建」では5年前から実習生を受け入れることに。タカさんとジンさんは3年の経験を積み試験に合格し、即戦力とされる「特定技能」に認定されました。
節約のため、会社が借りる一軒家で4人暮らしをしながら、タカさんは母国の家族へ月10万円ほど仕送りをしています。

懸命に働く中、会社のSNSでみられたのが「こういうところに限って低賃金で働かされてるよね」という事実とは異なるコメント。
実は今、こうした外国人に関する議論がSNS上で巻き起こっているのです。この会社では他にも「低賃金の外国人を優遇している」「日本人を雇用すべき」などとコメントされたことも。
実際には、「技能実習」や「特定技能」の賃金は日本人と同等以上と定められ、他にも、外国人の就労をサポートする団体に対し、会社から費用を支払う必要があります。団体によって異なりますが、「技能実習」は1人あたり平均で月約3万円(2023年)、「特定技能」 は1人あたり平均で月約2万8000円(2022年)です。

誤った認識で書かれる心無いコメントに…
日塗建 朝倉達也 代表取締役:
「安いから外国人を雇うんじゃなくて、本当に力になってほしいから雇う」
ジンさん(23):
「私たち外国人は日本人と(同じように)何でも仕事を一緒にやっているのに、いやな気持ち」
タカさん(22):
「私も頑張ってるから、遊んでないから、わかってほしいです」

そして、参院選の争点に急浮上した「外国人政策」。朝倉さんは、国籍問わず若者が建設業界に魅力を感じられるようにしてほしいといいます。
日塗建 朝倉達也 代表取締役:
「昔から日本の伝統である塗装業を継承してもらう、それが日本人なのか外国人なのかは僕はどっちでもいいと思ってる。日本の現状と外国人労働者たちの現状、そして僕ら小さな会社の現状をみて、よりよい方向にもっていっていただければ」
外国人に否定的な投稿が広がるワケは…?

人手不足の現場では外国人の存在が欠かせない中、事実無根の批判を受けてしまうという、深刻な状況に陥っています。
外国人をめぐる真偽不明の情報は他にも拡散されていますが、その中の一つに「外国人の犯罪が急増している」というものがあります。
この情報について調査してみると、2004年以降の在留外国人の数は増加傾向にあるものの、外国人による刑法犯の検挙件数は減少傾向にあることがわかりました。データを見る限り、外国人による犯罪が急増しているとは言えません。

さらに、「外国人が生活保護を優先して受給している」という投稿についても調べてみました。
生活保護を受給している世帯のうち、世帯主が外国籍である割合は全体の約2.8%。日本の在留外国人数は総人口の約2.7%なので、外国人が人口比率に反して多く受給しているわけではないことがわかります。
名古屋市に確認したところ、生活保護を受けることができる外国人は、永住者、永住者の配偶者、定住者、認定難民などに限られていて、技能実習生、留学生、就労目的、不法滞在などは対象外だということです。

なぜ、外国人に対して否定的な内容がSNSで多く投稿されているのでしょうか。社会心理学の専門家に聞いてみました。
新潟青陵大学の碓井真史教授によると、人間には、自分たちの生活がうまくいかない時に、周りの目立つもののせいにしたいという心理があるといいます。
急激な物価高の一方、なかなか賃金が上がらないという厳しい状況で不満が蓄積。そんな中で、外国人が日本に来て働くようになったり、外国人観光客が自分たちは買えない高価なものをたくさん買っていたりする姿を目の当たりに。
そういう状況で「外国人が優遇されている」などの情報に触れると、真偽を確かめる前に「自分たちの生活がうまくいかないのは外国人のせいだ」と思い込んでしまうことがあるといいます。
選挙戦も終盤を迎えていますが、SNSなどの情報を見るときは、それが正しいものなのか必ず確認するように心がけましょう