
【問題解決!大学発ベンチャー最前線】AIで製造工程を効率化 ニッポンのものづくりの生産性に革命を

アイクリスタル ニッポンのものづくりを変える「プロセスインフォマティクス」
アイクリスタルは高石将輝社長が名古屋大学大学院在学中に設立したスタートアップで、手掛けるのは、プロセスインフォマティクスという技術だ。
プロセスインフォマティクスとは、ものづくりの製造工程をAI、人工知能を使って解析し最適な方法を導き出す情報科学の技術。現在特に効果を発揮しているのは、半導体の製造分野だ。パソコン、スマホ、家電製品、さらには自動車まで、今やあらゆるものに使われている半導体だが、その製造方法はアナログな面もある。
意外に「アナログ」な面もある半導体の製造現場

名古屋大学の宇治原徹教授が大学の研究室で見せたのは、半導体の結晶をつくる「炉」だ。半導体は、この炉で、シリコンなどの材料を高温で熱して溶かし、結晶をつくる。炉でできた半導体の結晶を薄く輪切りにしたウェハをさらに細かく切り分けると、パソコンの集積回路などに使われるチップになる。問題は工程のはじめとなる「結晶づくり」だ。
名古屋大学工学部 宇治原徹教授:
「(結晶づくりは)短いものだと3日ぐらい。長いと1週間ぐらいかかる。1週間経ってつくるのに失敗したら、失敗した結晶を分析して製造データの値を変えて、また1週間結晶づくりをやり直してうまくいったらいいけど、失敗したらやり直し。この繰り返し。1週間おきにそれを繰り返す。今まではそうしていた」
「熟練技術者の試行錯誤」をAIでシミュレーション

結晶づくりが遅れれば、その後の工程にも大きく響く。そこで出番となるのがプロセスインフォマティクスだ。
アイクリスタル 高石将輝社長 (※高は「はしご高」)
「(パソコンの画面を見せながら)これは半導体の製造装置の炉で中が2000度という世界。実際に目視するのは難しいが、シミュレーションやAIを使って予測することをやっている。炉で半導体の結晶をつくるには製造条件が4つあって、このパラメータを熟練の技術者は勘で決めて、実際にトライ&エラーを繰り返して試作して、結果が良かったのか悪かったのかを評価する。僕らはこれを予測するAIをつくっているので
パラメータを変えたら中でどんなことが起きているのかをパソコン上で推論してくれる」
気が遠くなる作業もAIで「5分の1に効率化」

今まで1週間かけてようやく一つ作っていた結晶も、AIなら1秒間に10万回から100万回の試作をすることができる。その中から最適と判断された工程で作ったウェハの表面を電子顕微鏡で調べてみると…
Aiを使わずに試作したウェハは表面にでこぼこがあるのに対し、AIで最適化した工程で作ったウェハの表面は均一でむらがない。1回の試作でこれを実現できた。
アイクリスタルのプロセスインフォマティクスを導入した半導体メーカー担当者:
「新幹線の電気制御する半導体を作っている。半導体の結晶は大きくなればなるほど温度制御が難しくなる。例えばこちらが炉を動かすときにどんな温度にしたらいいのかというのは、ある程度経験的に設定するのだが、それで変な結晶が炉から出てきたときは途方に暮れるしどうにもならない。結晶が出てくるのに1週間かかるので、それを何十回何百回と繰り返さないといけない。その労力を考えるとAIを導入することで、開発期間が5分の1ぐらいになるという感覚がある」
目指すのは「人と共に進化するAI」

他にも大手カメラメーカーでは、この技術で画質を70%改善することに成功した。
ただ導入にあたっては、当初製造の現場から懐疑的な声があがったという。
アイクリスタル 高石将輝社長:
「(技術者からは)こんな条件で設定していいんですか?今までやったことないしどうなるかわからないと言われた。熟練の技術者は絶対だめだと言われたが、やってみたら結果はよかった。技術者の方も考えがアップデートされていた。人の代わりになるAIではなくて、人と共に進化するAI」





