日本最大規模のスタートアップ支援拠点、名古屋の「STATION Ai」 開業1年の成果と課題

「モノづくり王国・愛知を日本のシリコンバレーに」をスローガンに名古屋に生まれた「STATION Ai(ステーション・エーアイ)」が、10月1日で開業から1年を迎えます。その成果は――。
「STATION Ai」は、これまでにないアイデアや最先端の技術で成長をめざす比較的新しい企業「スタートアップ」を支援する日本最大規模の拠点として、去年10月に開業しました。
「STATION Aiの低層階は、一般の人も利用できるようになっています。ビジネスマンだけではなく学生や近所の方も食事を楽しんでいます」(井上裕衣記者)
愛知県が総工費約156億円をかけて整備した、地上7階・延べ面積2万3000平方メートルの建物。
約600社のスタートアップ企業と400社ほどの“老舗企業”が参加しています。
祖父の認知症きっかけにスタートアップ

1年前の開業と同時に入居したスタートアップ企業「イル」の山本裕晃社長(32)。
靴のインソールに仕込んだGPSで居場所を確認することができるサービスを開発しています。
きっかけは、認知症の祖父でした。
「祖父の介護に関わる機会があり、私だけではなく母や叔父・叔母が疲弊していく様を間近で見ていた」(イル 山本裕晃社長)
インソールにしたわけは――。
「警察にヒアリングしたら、裸足で徘徊すると、近所の人が明らかに異常だとすぐに通報してくれる。普段の格好で散歩か徘徊か分からない人の方が緊急度が高いということで、インソールがいいのではと」(山本社長)
入居きっかけに自治体と連携のチャンス

8月下旬にデモ機が完成。履いてみると――。
「とても軽いです。もっと重たいと思ったのですが、軽くてすいすい歩けます」(井上記者)
「5分に1回、移動した位置が分かるようになっています。電車に乗った軌道も分かる」(山本社長)
アプリを使えば、離れて暮らす家族も居場所を確認できるのが売りです。
「STATION Aiに入る企業ということで、ある種お墨付きを頂いているので、何もない時よりは話が早くなった」(山本社長)
STATION Aiへの入居をきっかけに、自治体と連携するチャンスがめぐってきました。
愛知県一宮市の事業の中で活用できる場面が見つかれば、今後、市内でGPS付きインソールが導入されることになります。
「一宮市でSTATION Aiに入った初の企業だった。そこからまず興味を持ちました」(一宮市 産業振興課 鈴木一也 専任課長)
「公益性の高い事業だと思うので、たくさんの人に役立つプロダクトとなるよう磨き上げていきたい」(山本社長)
自治体も連携を模索

STATION Aiができたことで、自治体側から仕掛ける新たな動きも生まれています。
県内8つの自治体の担当者は7月、スタートアップ企業を対象にプレゼンし、地域の課題解決に向けた連携を模索し始めました。
採用されれば、1つの事業に対して最大1000万円の実証支援金を交付するという条件もあり、8つの自治体に対して延べ121社から提案があったといいます。
「社長が意思決定権をもっているので、いろんなアイデアを出してきて、行政だとどうしても確実性を何度も検証して進めるが、『まずやってみよう』というところがスタートアップはすごい」(愛知県の担当者)
プレゼンした自治体の一つ、大府市が抱える課題は「大府駅周辺の活性化」です。
スタートアップ企業からの想定以上の提案は、うれしいサプライズだったようです。
「我々が思ってもいなかったようなご提案も頂いて驚いている。STATION Aiができたからこそ、この地域にスタートアップの企業も注目しているし、行政もそこを活用して、これまでやれなかったような課題にアプローチしていきたいと思っている。愛知県にSTATION Aiができたのは本当に大きい」(大府市 産業振興部 長坂勇幾さん)
今後、無事にスタートアップ企業とマッチングが成立すれば、実証実験を経て、来年3月下旬に取り組みの成果が発表される予定です。
大きな課題は「固定費」

こうしてチャンスの窓口が広がる一方で、STATION Aiには課題点も見え始めています。
「やはり固定費がかかってくるのは大きな課題。特にスタートアップは資金繰りを気にしないといけないので、そのあたりを考えると、なるべく抑えたいのが本音」(入居するスタートアップ企業経営者)
スタートアップ企業にとって重荷となるのが、毎月かかる利用料金、「固定費」です。
「プランを変えて続けたり、一時的に離れて機会を見たり、都度参加の方もいる」(入居するスタートアップ企業経営者)
Q.「個室」から「席」単位の契約プランに?
「『席』の契約に変えるのかというところ」(入居するスタートアップ企業経営者)
Q.状況を見極めつつでしょうか?
「そうですね」(入居するスタートアップ企業経営者)
肝いり政策としてSTATION Aiの整備を進めてきた大村知事は、1年を迎えることについて「成果を着実に積み重ね、我が国のイノベーション創出の総本山として邁進して参ります」とコメントしています。
“収獲の秋”はもう少し先になりそうです。