GW明けは新卒社員の退職代行サービス利用が増加 背景にミスマッチや五月病、コロナ禍の影響も

ゴールデンウイーク明けに、4月に入社したばかりの新卒社員からの依頼が増えるサービスがあります。それは「退職代行サービス」。その名の通り、労働者の退職の意思を本人に代わって企業に伝えるサービスです。なぜゴールデンウイーク明けに新卒社員の退職代行の利用が増えるのか、調べました。
2024年の月別の利用者数は5月が最も多い

退職代行サービスの利用者は年々増加していて、例えば2022年に事業を始めた退職代行モームリの場合、初年度には1100人ほどだった利用者数が2024年度は約2万人と、20倍になっているんです。
利用者のうち1割ほどが新卒社員でした。新卒社員の2024年の月別の利用者数は5月が最も多く、特にゴールデンウイーク明けに依頼が増えるといいます。

インディードリクルートパートナーズリサーチセンターの栗田貴祥さんに話を聞きました。
5月は就職から1カ月が経過し、思い描いていた仕事ややりたいことと、実際の仕事の内容とのギャップ、いわゆる、就職におけるミスマッチに新入社員が気づく時期なんです。さらにゴールデンウイーク明けならではの2つの要因があります。
“五月病”が原因の1つに

1つ目は五月病です。医学的には「適応障害」、あるいは「うつ病」と診断される5月病。新卒社員や学生などが環境の変化についていけず、期待や不安から続いていた緊張がゴールデンウイークの連休で緩んで「物事を悲観的に考える」、「なんとなくだるい」、「やる気がでない」など気分が落ち込む症状が出て、結果として退職を選ぶというわけです。
「友人は現場、自分はまだ研修中」など周囲と比較

2つ目は「周囲との比較する」ことです。ゴールデンウイーク中に友人と会って仕事の話をしたときに、例えば「友人は現場に出ているのに自分はまだ研修中」など、仕事内容の進み具合や育成方針の差に不安を覚えます。そしていまの会社で働き続けことに疑問を感じ、退職してしまうことがあるんです。
コロナ禍で年上の人と話す機会が減る→退職代行サービスを利用か

栗田さんによると、新卒社員をはじめ若手社員はコロナ禍の影響で年上の人と話す機会が減ったため、年長者にどう接していいか分からない傾向があるそうです。そのため上司を介して会社に直接「やめたい」と伝えることが心理的負担になり、退職代行サービスを選ぶ人が多いのではないかとのことでした。
依頼の際に気をつけることは? 企業側はどう対応すればいい?

実は退職代行サービスには「弁護士」「労働組合」「民間企業」の3つの運営元があり、対応できる内容が違います。
●弁護士
依頼者の代理人として退職日の調整や有給消化など退職に関する交渉から、訴訟問題はじめ法的なトラブルにも対応できます。
●労働組合が運営する退職代行サービス
企業と交渉できる団体交渉権という権利を有しているため、退職に関する交渉はできます。しかし法的トラブルに関する対応はできません。
●民間企業の退職代行サービス
企業との交渉や法的トラブルへの対応はできず、あくまで本人に変わって退職の意思を会社に伝える使者の役割しか担えません。

弁護士法人・響の古藤由佳弁護士によると、民間企業の退職代行サービスに依頼した場合、結局、本人が対応せざるを得ない可能性もあるといいます。会社側から「引継ぎもあるし、いったん出勤してほしい」など、出勤を条件に退職の具体的な話を進めるといわれることもあるのです。
無理な引き留めは会社のイメージダウンにつながる可能性

そんな退職代行サービスから突然連絡が来た企業側は、どのように対応すればいいのか。結論からいえば、「速やかに退職の手続きをとる」ことが得策といいます。
仕事可視化ツールを提供しているパーソルビジネスプロセスデザインによると、退職代行サービスに依頼している時点で、本人は会社に対し“良い感情がない”と考えられるからです。
無理に引き留めようとするとSNSなどに拡散され、企業のイメージダウンにつながるおそれもありますし、場合によっては民法627条の「退職の自由」に抵触する可能性もあるといいます。

インディードリクルートパートナーズリサーチセンターの栗田貴祥さんは、新卒社員本人以外からの予期しない退職の意思通知を受けないためにも、就職におけるミスマッチを防ぐ工夫が重要といいます。「入社してからのサポート体制を整え、新卒社員が相談しやすい環境を作ることが大切」と話していました。