人手不足の秘密兵器「スポットワーク」 介護事業など「専門性が高い分野」でもバイトを活用する動き

新たな働き方として注目を集めているのが「スポットワーク」。スポットワークとは、雇用者と被雇用者が継続した雇用関係を持たずに単発・短期間で働くことです。短くて数時間から働けるため「スキマバイト」とも呼ばれています。
専用アプリ大手4社の登録者数は、5月1日時点でのべ約3400万人。2年前の同時期の約3倍です。なぜここまで急拡大しているのか。スポットワーカー急増の背景と雇用者側の活用例について詳しく解説します。
企業が副業を解禁 フリーランスも増加傾向に

スポットワークは、応募にあたっての履歴書や面接は原則不要。専門的な知識やスキルを問わない仕事がほとんどです。数時間から働けることもあり、スキマ時間に働くスポットワーカーが増えています。
こうしたスポットワーク市場の急速な拡大について、中央大学経済学部の阿部正浩教授は「柔軟な働き方を求める人の増加が背景にある」としています。

国が企業の副業解禁を促進していることもあり、近年は副業をする人が増加。また、企業からの業務委託という形で仕事をするフリーランスも増加傾向です。
「こうした人にとってスポットワークは自分のライフスタイルに合わせた仕事がしやすく、利用者が増加したのでは」と阿部教授は話します。
病気による欠員、突発的な人手不足に対応

スポットワークは働き手だけでなく、雇用者側のニーズも高まっています。
スポットワーク専用アプリ大手「タイミー」での求人件数は、2024年11月から2025年1月にかけての3カ月で約350万件。前年の同じ時期に比べて4割以上(43.8%)の増加です。背景にあるのは人手不足。雇用者にとっては、スポットワークで突発的な人手不足に対応できるのが大きなメリットです。病気などで欠員が出た場合や、普段より人員が必要な繁忙期にも、応募書類の確認や面接といった採用の手間をかけずに人員を確保できます。
専門的なスキルが必要な企業とは親和性が低い?

スポットワーク活用の実態について帝国データバンクが調査しています。2024年11月、全国のさまざまな業種の企業1685社を対象に行った調査では、活用に前向きだと答えた企業は約4割でしたが、実際に活用している企業は全体の1割に届いていません。
人手不足の解消につながりそうなのに、活用が進まない背景には「専門的なスキルや技術が必要な仕事が多い企業はスポットワークとの親和性が低いのでは」といった声もあるようです。
特に情報サービスや建設、機械製造といった業種で多くありました。
分業体制の整備で人手不足解消につなげる

ただ、スポットワーク協会の後藤一重事務局長は専門性が必要な業種こそスポットワークで対応できる業務の切り出しをしたうえで、スポットワーカーと専門スタッフの分業体制を整えることが必要だとしています。
実は専門性が必要な業種でもスポットワークの活用が進んでいます。例えば介護事業。取材をした埼玉県川口市の介護事業者では、スポットワークで施設利用者の送迎や清掃、レクリエーションの手伝いなどを依頼しています。
スポットワークの活用事例

これらの業務は専門的な知識やスキルを必要としませんが、従来は介護福祉士などの専門スタッフが担うことが多かったそうです。こうした業務をスポットワークで補うことで、専門スタッフが本来の業務に集中しやすくなったといいます。

さらに、スポットワーク事業大手のタイミーによる介護事業を対象にした調査によるとスポットワーカーの働きぶりを評価して、長期採用につなげた事業所もあり、その割合は全体の14.3%。つまりスポットワークは、人材発掘の手段にもなっているといえそうです。
スポットワークの活用は今後一時的な人手不足を補うだけではなく、慢性的な人手不足解消のカギになるかもしれません。