「0.1ミリの精度」でストローを作り分け 脱プラスチックの逆風の中、新市場で需要を次々に開拓

環境汚染や地球温暖化への懸念から「脱ストロー」の機運が高まっています。そうした中、ストローの専門メーカーが全く新しい市場で需要を次々と開拓し、新たな収益の柱を築いています。その取り組みを追いました。
医療分野でのストローの活用

近年、コロナ禍を経て医療分野でのストローの需要が増えています。例えば、鼻に薬を噴霧する医療器具の先端に使われる「ノズルカバー」にストローを使用。感染防止のため患者ごとに取り換えられます。

このストローを製造しているのが、岡山県浅口市にあるシバセ工業です。岡山県浅口市は国産ストローの発祥の地。かつてはストローの語源となる麦わら(straw)からつくられていました。現在は医療向けのストローとして、手術で臓器や血管をつかむ器具のカバーや、PCR検査での唾液採取用のストロー、アルコール検知器の口元カバーなどを製造しています。
工業用途におけるストローの役割

そんなシバセ工業はストローを手がけて55年。医療器具のカバーをつくるなど、業務用ストローの売上高は国内トップシェアを誇ります。同社のストローは工業用途で幅広く利用されています。
シバセ工業 本社営業部 玉石一馬部長:
「分かりやすいので言えば保護キャップとか。見えないところで、ストローが使われています」
高精度ストロー製造の技術

例えば、手術のときに臓器や血管をつかんだり圧迫したりする鉗子(かんし)といわれる器具。鋭い先端に触れてけがしないよう、ストローで覆っています。さらにPCR検査での唾液の採取用や、アルコール検知器の口でくわえる部分にも使われているのです。
ほかにもバネやボルトの容器として使われるストローなど、1000社以上の企業がシバセ工業の製品を採用。飲料用ストローの需要が減少する中、工業用ストローの製造が新たな収益源となっています。
もちろん、そこには難しさもありました。

シバセ工業 玉石部長:
「飲料用ストローは飲みやすい状態にして、おいしく感じればいいんです。しかし工業用・医療用になると、ストローを何かに被せる、入れるとか、0.1ミリ狂ってしまうだけで合わなくなってしまいます」

そこでシバセ工業が取り組んだのが、直径0.1ミリの違いを見分ける高精度な製造方法です。自社で開発した製造機械を使用し、外側の輪から樹脂を押し出し、真ん中の穴から空気を出すことで中が空洞のストローを製作。空気の量を細かく調整することで、0.1ミリの精度でストローをつくり分けられるのです。出てきた樹脂は200度以上の高温で、水で冷やして成型されます。
シバセ工業の挑戦と生き残り戦略

かつては大手の下請けとして飲料用ストローを製造していたシバセ工業ですが、契約打ち切りで経営危機に陥ったことも。新たに工業・医療分野に進出したことで、生き残りを図りました。「効率よりも品質を最優先にして、正確な製品を提供することを重視しています」と玉石部長は話します。
日本経済新聞社 岡山支局 中野颯太記者:
「工業用(医療用)ストローの製造はニッチな分野で、ここまで多様な製品を展開している企業は、国内ではほかに見当たりません。競争の少ないブルーオーシャンを切り拓いたといえます」
シバセ工業の取り組みはプラスチックストローの新たな可能性を示し、逆風の中でも確固たる地位を築いています。