伝統工芸品の衰退で「地域の個性や記憶の喪失」 サブスクやレンタルなどの取り組みで後世へ継承する試みも

伝統工芸品を後世に伝える取り組み
担い手が減っている郷土伝統工芸品を子どもたちに知ってもらおうと蒲郡市の小学校で特別授業が行われました。
子どもたちが小学校の中庭で植えていたのは黒い種です。
質問:
「これが大きくなったら何になるの?」
小学生:
「綿になる」
子どもたちは2025年の秋、自分たちで育てた綿を使って「三河木綿」を作ります。三河木綿は、蒲郡市など三河地方で織られた綿織物です。衣類や寝具などに使われていて、愛知県の郷土伝統工芸品に分類されています。
三河木綿の産地の1つとして、かつて蒲郡市では繊維産業が盛んでした。しかし、市内の繊維産業の事業所数は1989年から2019年までの30年間でおよそ6分の1に減少し、近年、担い手の不足が課題となっています。この状況を変えようと蒲郡市は10年ほど前から市内の小学校で三河木綿の特別授業を行っています。
授業で子どもたちは、講師に教えてもらいながら綿から糸を紡ぐ工程などを体験しました。
小学生は:
「(三河木綿について)そんなに聞いたことがないから存在すら知らなかった。(糸づくり体験を)やってみてめちゃくちゃ楽しかったのでまたいっぱい作ってみたい」
特別授業は年3回行われ、最後に自分たちで育てた綿から糸を紡いでコースターを作る予定です。
担い手不足に悩む「伝統工芸品」

蒲郡市では子どもたちに興味を持ってもらうことで、将来的な担い手不足の解消につなげたいということですが、伝統工芸品の中でも100年以上の歴史を持つ技術・技法で製造される工芸品を、国が「伝統的工芸品」と指定しています。
愛知県では、有松・鳴海絞や常滑焼など15品目あります。その生産額は1983年度のおよそ5400億円をピークに、2022年度はおよそ1050億円にまで減少しました。また、従事者数も、最多だった1979年度のおよそ28万8000人から、2022年度はおよそ4万8000人に減少しています。
伝統的工芸品産業振興協会は要因について、生活様式の変化による需要の減少や原材料の価格高騰などと指摘しています。
伝統工芸品がなくなのるのは「地域の個性や記憶の喪失」になる
伝統工芸品の衰退はどんな影響があるのか、専門家に聞きました。
京都産業大学 成田智恵子准教授:
「三河木綿もそうだが、伝統工芸品の多くがその土地の自然や風土と結びついたものになるので、工芸品そのものが地域の歴史や文化を写す存在である。それが衰退していくのは、その地域の個性や記憶の喪失につながる」
伝統工芸品を残していくために必要なことは…
京都産業大学 成田智恵子准教授:
「伝統工芸品を実際に使うことが対策として一番大事。今回の三河木綿の小学生体験教室のように自然の素材、地元の素材に自分の手で触れて使ってみるという経験が大事」
解決の糸口を見つけようと、新たな取り組みも始まっています。
京都産業大学 成田智恵子准教授:
「伝統工芸品のレンタル、サブスクリプションサービスが登場している。あとはホテル館内の調度品に工芸品を使って宿泊者が実際に使えるようにすることで、興味を持った人が館内のショップで購入できるように導線を工夫しているところもある。最初から買ってくださいということではなく、まずは触れてみて気に入ったら生活の中に取り入れてくださいと。自分たちの持っている技能をどのように現代の生活に生かしていくのかという視点を持って積極的に職人がそういうところに参加して挑戦する姿も増えてきている」