水面に浮かべたカゴでマガキを養殖 「ハマチ養殖発祥の地」活性化に向けて新たな挑戦

ハマチ養殖発祥の地である香川県東かがわ市では、マガキの養殖が試験的に行われています。行政やスタートアップが中心となり、年間を通じたマガキの出荷と産地化を目指しているこの養殖には、ある“秘策”がありました。
東かがわ市でのマガキ試験養殖

香川県東かがわ市に位置する安戸池では、2023年10月から試験的にマガキの養殖が始まりました。この地域では、国内でも珍しい「シングルシード方式」を採用しています。同方式を取り入れることで、より効率的で品質の高いカキの養殖が可能になるのです。
シングルシード方式の導入とメリット

シングルシード方式とは、長さ70センチほどのカゴの中にカキを入れ、水面に浮かべて養殖するもの。一般的なカキ養殖は、海中に吊り下げる「垂下式」が主流ですが、引き上げるまで育ちの具合が確認できないという欠点がありました。一方、シングルシード方式なら水面で簡単に把握できます。

カゴは定期的に180度ターンさせます。カキ同士がこすれ、ホヤなどの生物が付きにくく、きれいな状態で出荷できるのです。
この“秘策”を仕掛けたのは、東かがわ市官民連携マネージャーの寺西康博さん。「養殖のまち・東かがわ市のさらなる発展を目指して、カキ養殖に挑戦しています」と意気込みます。

安戸池は約100年前に、世界で初めてハマチ養殖の事業化に成功した場所です。しかし近年ではエサ代の高騰などにより、廃業や廃業を検討する漁業者が増えています。
日本経済新聞社 高松支局 鈴木泰介記者:
「3、4キロ沖合でのえさやりは3~4時間かかり、高齢の漁業者にはきつい仕事になります。負担の軽いカキ養殖を手掛け、大都市圏のレストランなどに売り込めれば稼げる漁業となり、若者の新規雇用にもつながります」
スタートアップ「リブル」が支援

「養殖のまち」活性化を支援するのが、カキ養殖で独自のノウハウを持つ徳島県のスタートアップ、リブルです。リブルが欧米で主流となっているシングルシード方式の導入を提案しました。さらに、冬が旬のカキ(マガキ)のほかに、「三倍体カキ」の稚貝も供給しています。通常のマガキは夏に産卵して身がやせてしまいますが、三倍体カキは産卵しないため夏でも出荷が可能です。
「三倍体カキ」と技術支援による新たな漁業モデル

さらにリブルは、水温やプランクトン量の指標データを集めるセンサーを提供。収集したデータをリブルに送信すると、同社から漁業者のスマートフォンに投入する稚貝の種類や個数、タイミングなどのアドバイスが届きます。これにより、技術や経験がなくてもカキ養殖に取り組むことができ、安定的な収入が得られる魅力があります。

実際、試験養殖の作業を担うのは釣り堀などを運営する会社の従業員です。養殖を担う六車庄一さんは「そんなに難しい作業もないですし、労力もそんなにかからないです」と話します。

新たなカキ養殖の仕組みを取り入れることで、東かがわ市はハマチ養殖をやめた高齢の漁業者を担い手にして規模を拡大する予定です。市は3年程度で事業を軌道に乗せ、新たなカキ産地としての地位を確立し、1事業者あたり年12万個の出荷を目指しています。