北海の幸「サーモン」養殖された場所は畑違いの東邦ガス ガス製造に使われた冷たい水を再利用し陸上養殖

陸上で養殖されたサーモンが名古屋市内のスーパーに出荷されました。サーモンの養殖に挑んだのは“畑違い”の会社です。午後2時すぎ、名古屋市港区のスーパーに並んでいるのは100グラム598円のサーモンです。

客:
「身がプリプリでおいしい」
「おいしい、おいしい」
普段、このスーパーで取り扱うサーモンはノルウェー産やチリ産などが多いのですが、5月29日に店頭に並んだサーモン、実は「東邦ガス産」なんです。
取材班が向かった先は、東海地方のライフラインを支えるエネルギー基地の一大拠点です。その一角、東邦ガスの施設で北海の幸、サーモンが育っていました。なぜ東邦ガスでサーモンを養殖しているのでしょうか。そのヒントは水です。

記者:
「サーモンが育っている水槽の水温を温度計で測ってみると、14.6度となりました。とても冷たいです」
サーモンの養殖に適した冷たい水は、ガスを製造する際に使用される水を再利用していました。
常温では気体の天然ガス。輸入や貯蔵の際には嵩を減らすため、超低温で冷やして、液体にしています。これが液化天然ガス、いわゆるLNGです。そのLNGを液体から気体にする施設の壁の小窓の扉を開けると、中には滝が!

流れ落ちているのは伊勢湾の海水です。目を凝らしてよく見ると、滝の向こうにチューブのようなものがあり、実はこの中をマイナス162度のLNGが流れているのです。
海水をあて温度があがったLNGは、チューブの中で気体に変化。都市ガスとして各家庭に届けられる仕組みです。一方、LNGの気化に使われた冷たい海水は、パイプを伝ってサーモンの養殖用の水槽へ。サーモンたちに絶えず冷たい水が供給される仕組みです。

3年前に取材したときには2つしかなかった養殖施設は、5つに増設されました。さらに、サーモンの飼育数も3200匹から約3万匹に増えました。東邦ガスは6月中旬までに、大手スーパーを中心に40トンほどのサーモンを出荷することを目指しています。

東邦ガスによるサーモンの養殖について、同社の事業開発部の木村徳博さんに話を聞きました。
――施設の規模や飼育数、出荷先がますます拡大している印象ですが、当初と比べると施設はだいぶ変わりましたか。
東邦ガス 木村徳博さん:
「設備を増設させていただいたので、やはり規模感が大きくなって、その分、様々な対応することも増えてきた印象があります」
――規模が増えるとそれだけ収益に結びつきますよね。どのような状況になっていますか。
「当社としては、今回からサーモンの養殖を事業として推進していますが、まだ黒字化には至っていなく、早期の黒字化を目指していきたいです」
――黒字にするには、どういったハードルがありますか。
「現状、7つ水槽があるうちの5個が稼働しています。5個の稼働から7個に増やして、出荷量を増やすことが喫緊の課題だと思っています」

――5つから7つにするというのは、ステップを踏んでさらに増やしていくイメージでしょうか。
東邦ガス 木村さん:
「現状は、さらなる増設の予定が具体的にあるわけではないのですけれども、まずは7つの設備をしっかりと稼働させて事業性を確保することで、次の展開に向けて検討していきたいと思っています」
――この事業を始めて、「東邦ガスの方がサーモンを育てている」というのは、周りの反響も大きいのではないでしょうか。
「スーパーに並んだお刺し身を、実際に私の知り合いも食べて感想を教えてくれました。『おいしい』と言ってくれて、そのときに本当に実感が湧きました」
――木村さんもこの事業の担当者のお1人として、入社当初よりサーモンを口にする機会も相当増えているのではないでしょうか。
「本当に増えています。スーパーに行ったら、まずサーモンがどうなっているかというのが気になってしょうがなくなりました」