アルコールを使わない「しょうゆ」も イスラム教徒に対応した食事提供で商機 ハラールビジネス最前線
イスラム教の聖典であるコーランなどで定められるイスラム法にのっとった物事を「ハラール」と言います。このハラールには食品に関する決まりもあり、豚肉やアルコール分を含まないことなどが必要とされています。今、食品業界ではハラール対応をビジネスチャンスととらえ取り組む企業が増えています。なぜハラールがビジネスとなっているのでしょうか。ハラールビジネス最前線について取材しました。
訪日観光客の増加が理由に
背景には、訪日観光客が増えていることが挙げられます。イスラム教徒・ムスリムのマレーシアやインドネシアからの訪日客の推移です。10年ほど前から増え始め、コロナ禍で減りましたが近年、再び増加に転じています。
愛知県を訪れるムスリムの方に、食事のハラール対応が必要になってきています。
イスラム教で禁じられている食品を取り除くことが必要です。さらに取り除いたことを証明してもらうため、第三者機関からハラールの認証を取る方法もあります。まずは、イスラム教で禁じられている食品を取り除く対応をしている例を紹介します。
「ムスリムフレンドリー」で自分たちが可能なハラール対応を掲示
味噌煮込みうどん店の「大久手山本屋」です。この店では、2016年から豚肉やアルコールを使わない、ハラールメニューの提供を始めました。現在は1日に20人から30人ほどのムスリム客が来店するほど人気となっています。専務の青木裕典さんは、仕事で知り合ったムスリムとの会話がハラールメニューを作るきっかけだったといいます。
大久手山本屋 専務 青木裕典さん:
「うどんをよかったら食べにきて、と言ったときに、『ハラールかどうかわからないから食べられない』と言われて、そこからどうやればハラールになるのかというところを考えて作った形ですね」
この店では、「ムスリムフレンドリー」と名付けて、自分たちが可能なハラール対応を掲示して客に判断してもらっています。
青木さん:
「例えば店の中でビールを出さないほうがいいとか、うちの店の中には豚のどての串とかいわゆるハラールじゃないものもあるので、それもしっかり(ムスリムに)話をして。日本人も食べたい、イスラム教徒の人も食べたい、さまざまなものを店で取りそろえたいんですよね。(ハラール)認証まで持っていくとしても、日本人の方々に迷惑をかけてはいけないので、そのラインが、『ムスリムフレンドリーポリシー』になりました」
大久手山本屋では、ハラール専用の食材と、それ以外の食材や調味料が混ざらないようにしています。鶏肉はイスラムの教義に則って処理した「ハラール認証」を受けたものを使っていて、しょうゆはアルコールを含まないものを使用。調理する道具も鍋や包丁、まな板などもハラール専用に用意します。
大久手山本屋ではムスリム客の増加もあり、年間売上は1500万円ほどあがったそうです。さらに11月には、インドネシアの首都ジャカルタに支店を出す予定だそうです。
青木さん:
「もともとうちの店にいたスタッフもインドネシアの方が来るから、インドネシア語を勉強しようと。そのインドネシア語を実際インドネシアで使っている状況が今あって。そのほかもちろん、料理のスキルも(愛知で)ハラールをやっていたからこそ、現地でハラールはこうしたら食べられるよな、ということがわかるので。そういった意味ではすごく(取り組んできて)よかったです」
一方ハラール認証を取って、ビジネスチャンスをうかがうのが、豊山町の食品メーカー、味食研です。味食研は、2017年に国外向けのハラール認証を取得しました。現在、ハラール専用工場で焼き肉のたれや、うどん・そばのつゆを製造しています。それらは日系企業がムスリム諸国に出店している飲食店で使われています。事業立ち上げ時に5人だったハラール製品を取り扱える資格「ハラール管理責任者」を、10人まで増やして対応しています。
今後、企業に求められる対応は?
このハラールビジネスについて、立命館大学の阿良田麻里子教授に話を聞きました。阿良田教授は「輸出を考えるなら認証を取った方がいいが、国内ではあまり必要でない」と話します。理由は、ハラール認証は規格が厳しく、費用がかかることです。魅力的な商品を作った上で大久手山本屋のようにできることとできないことを示して、個々のムスリムに判断してもらうことが重要と指摘しています。