
明治からの味を守る…老舗アユ料理店を継承したのは“イチゴ農家” 前オーナーが認めた「覚えようという気力」


岐阜県揖斐川町にある老舗料理店「運上館(うんじょうかん)」は、夏の名物アユ料理を目当てに全国から客が訪れる名店です。2025年6月、イチゴ農園を営む加藤三幸さん(54)が事業を継承。明治から守られてきた伝統の味を受け継ぎながら、新たな挑戦を続けています。
■全国から毎年リピーターが訪れる老舗アユ料理店
町の中心を揖斐川が流れる岐阜県揖斐川町。清流のほとりに、明治時代から続く料理店「運上館」があります。夏には、アユ料理を求めて全国から大勢の人が訪れます。

客: 「年に1回、夏に来る」 名古屋から通う常連客: 「40年間毎年来ている。比較する店がない」

今その味を担うのは店主の加藤三幸さん(54)です。加藤さんにはもう一つの顔があります。お店から10分ほどの場所にある「イチゴ農園」を営んでいます。 加藤さん: 「イチゴを買いに来た前のオーナーが、『体が調子悪くてやめるか、誰か跡を継いでくれる人間がいないか』と言っていた」

2025年6月、加藤さんは事業継承によって運上館の店主となりました。 加藤さん: 「(始める前は)不安でした。全部初めてなので。味を継ぐのが条件なので。今までのお客さんが味を求めて県外から来るので。毎日苦労もありますけど無駄な時間がない」 加藤さんは一念発起し、鮎料理の世界に飛び込みました。
■明治から続く伝統の味を守る
午前7時、最初に酢をベースとした秘伝の味付け「鮎の酢の物」の仕込みを始めます。岐阜県池田町の養殖場から仕入れた極上のアユを、その日使う分だけ生簀から店内の水槽へ。大きな骨や内臓を取り除き、1つ1つ鍋に並べていきます。 加藤さん: 「この店の独自のもの。これ目当てでくる人もいる」 じっくり火にかけると、煮崩れすることなく美しい鮎の酢の物が出来上がりました。

加藤さん: 「(これまで料理は)家でやるぐらい。麻婆豆腐とか。ネットで見て」 イチゴ農園を営む加藤さんに、お店継承の話があったのは2023年頃。妻の真紀さんも「やってみたい」と賛成、2025年に入り受け継ぐことを決意しました。 妻の真紀さん: 「お父さん大変だけど、いい話かなって。イチゴも14年目。なんとか2人で乗り越えてきたので、あの人とならこれから先も頑張っていける」

前の店主からレシピを学び、2025年6月にオープン。味を知る料理人やスタッフと協力しながら、慣れない鮎料理店を切り盛り。明治から続く伝統の味を必死で守っています。 真紀さん: 「遠方からのお客さんが多い。『あなたたちに変わって味が変わってないかな』『心配して来たよ』って」 中には、「少し味が違う」と厳しい言葉をかける客もいたといいます。

真紀さん: 「厳しい言葉も。でもそこでまた勉強して。最終的には『このお店を守ってくれてうれしい』って帰られる。『また来年も来るね』ってうれしい言葉」 加藤さん: 「みんなの手助けがあってやっていけるので。最初は簡単に考えていた。今までの長い歴史があるので背負ったものは重たいと思う」
■客「味は昔から変わらない」…運上館が誇る夏の味
午前11時に開店すると、お店はすぐ満席に。酢の物以外の鮎料理は、注文が入ってから手掛けます。看板料理の「鮎の塩焼き」(770円)は、背ビレや尾ビレが焦げ落ちないよう化粧塩を施すと、炭を使って遠火でじっくりと焼き上げます。皮はパリッと香ばしく、身はふっくらと仕上がりました。

客: 「鮎ならではのさっぱり感」 他の客: 「焦げ目と塩味とふわふわ加減がいいバランス」 アユ1匹を贅沢に炊いた雑炊も絶品。地の恵みが凝縮された出汁は、香り豊かで深い味わいです。旬のアユを存分に味わえる「鮎料理Bコース」(4730円)は、運上館が誇る夏の味です。

客: 「雑炊がすごくおいしかった。柚子胡椒がピッタリ。ここまで来た甲斐がありました」 愛知県一宮市から来た常連客: 「味は変わらない。昔から同じおいしさ」
■前店主から託された伝統の味とおもてなしの心
前の店主・宗宮さんは、時々お店を訪れてはアユの捌き方や味付けを相伝します。 前オーナーの宗宮さん: 「覚えようという気力は熱心。味を守ろうとしている。だから託した。とにかくお客さんを大事にしてほしい。お客さんあっての商売」

加藤さんの次男・直人さんも、週末を中心にお店を手伝います。 直人さん: 「憧れの父。僕はだらけてしまう部分があって。毎週ここで父親の姿を見て『僕も頑張らないと』と思う」

一念発起して飛び込んだアユ料理の世界。明治から続く伝統の味を、周りの協力を得ながら加藤さんが守り受け継ぎます。 加藤さん: 「今までの長い歴史がある。電話でも言われる。『今までの味と一緒?』って。『一緒です』って。お客さんが笑顔で帰れるように頑張りたい」

清流の恵みが織りなす伝統の味は、これからも揖斐川の町で受け継がれていきます。 2025年8月27日放送