老舗日本酒の大手酒造があえて少量生産で毎月新商品開発 個性的な酒の開発でファンの裾野を広げる試み

2024年ユネスコの無形文化遺産に登録された「日本酒」。兵庫県にある国内最大手酒造「白鶴酒造」が始めたのは、あえての“少量生産”でした。
小規模だからこそ生まれる新しい日本酒

日本酒最大手の白鶴酒造。本社にある資料館には、平日にもかかわらず大勢の外国人観光客が訪れています。人気なのは、3種類の日本酒が楽しめる試飲コーナーです。
2024年9月にオープンしたマイクロブルワリー「HAKUTSURU SAKE CRAFT」は、日本酒づくりのすべての工程を施設内で完結できます。マイクロブルワリーとは小さな醸造施設のこと。杜氏である伴光博さんと蔵人の能地亮輔さんの2人が専任で担当し、少量生産に挑んでいます。

白鶴酒造の創業は1743年。工場では1日あたり7万リットルの原酒が生産されますが、「HAKUTSURU SAKE CRAFT」では、1カ月でわずか140リットルほど。四合瓶で200本程度の生産です。このマイクロブルワリーを使って、小規模ならではのまったく新しい酒を開発することを目指しています。
多様な酵母を活かした「No.シリーズ」

こうして生まれた日本酒が「No.5」。リンゴのように甘い香りが特徴のNo.5は、価格が7700円と主力商品の約9倍ですが、早ければ2週間ほどで完売します。
白鶴酒造 蔵人 能地亮輔主任:
「やっと表舞台に出られるんだなという、うれしい気持ち。いままでお酒がちょっと苦手な方でも飲みやすいようなお酒ができました」

最新作の「No.6」は、原料にイチゴを加え、果実の風味が広がる特徴を持つ酒です。大手の白鶴は独自の酵母を470種類以上も持っていますが、中には香りが変化しやすく、劣化が早い酵母もあり、大量生産の商品には向いていませんでした。200本の限定生産だからこそ「眠れる資産」が白鶴ならではの新たな価値を生んでいるのです。

日本経済新聞社 岩本隆神戸支局長:
「日本酒の出荷量は長年ずっと減っている傾向にありますが、単価は上がっています。『クラフトサケ』と呼ばれるような『その他の醸造酒』など、多様な酒を造ることで日本酒ファンのすそ野が国内外問わず拡大していく。そういったきっかけになると考えています」
日本酒市場の現状と白鶴酒造の戦略

日本酒の国内出荷量は1973年をピークに減少傾向にありますが、1リットルあたりの単価は2012年を境に上昇傾向にあります。白鶴酒造でも高単価の酒が売り上げを伸ばし、好調を維持しています。マイクロブルワリーを通じて多様な酒造りの経験を蓄積し、酒造りに興味のある企業に向けた醸造コンサルティングなど、日本酒ビジネスの可能性を広げています。
マイクロブルワリーがもたらす未来の展望

白鶴酒造 杜氏 伴光博執行役員:
「今の酒のすぐ際にある誰も飲んだことがないような世界が(その他の醸造酒には)広がっています。そういった可能性の中に『SAKE CRAFT』として足を踏み出していきたいですね」
白鶴酒造は、今後も1月に一度のペースで新商品の発売を予定しています。現在はNo.13あたりまでの計画が進行中。多様な酒造りを通じて、日本酒ファンのすそ野を国内外問わず拡大し、「SAKE CRAFT」としての新たな可能性に挑み続けます。