
射撃からコックの道へ…ホテルで活躍する『元・任期制自衛官』 企業にも自衛隊にとっても“WinーWin”な理由とは


JR東海グループは2025年に初めて、2年や3年などの任期を終えた「任期制自衛官」を採用しました。規律を重んじる現場での経験は、チームワークが求められる職場で、役立っているようです。
■武器を鍋に持ち替えて…元自衛官が「料理の道」へ
名古屋マリオットアソシアホテルのパーティー会場で、ローストビーフを切り分ける市岡侑也さん(24)は、2カ月まで海上自衛隊の1分隊の攻撃要員として任務にあたっていた元自衛官です。

市岡さん: 「もともと高校から調理師免許を取得して。可児市のゴルフ場のレストランで3年ほど勤務して、それから自衛隊に3年ほど勤務して、今に」 高校卒業と同時に料理の世界に飛び込みましたが、コロナ禍で飲食業界が低迷する中、3年前に「任期制自衛官」として入隊しました。

最初は『自衛隊のコック』として働くつもりでしたが、“意外な才能”を見出されたといいます。 市岡さん: 「射撃員として、適正検査というのがありまして、射撃の能力が高かったので。鍋は振るわず武器ばかり」

市岡さんは、輸送艦「おおすみ」で武器の管理や射撃業務にあたったほか、能登半島地震の被災地にも出動しました。 様々な経験をした3年間の任期を全うしたタイミングで、市岡さんはジェイアール東海ホテルズへ就職し、再び料理の道を進むことになりました。

結婚式などで提供する洋食の調理担当に配属され、仕込み作業など研修の日々を送っています。厨房での快活な返事や機敏な動きなど、自衛隊仕込みの所作が染み付いています。

シェフ: 「チームワークで作り上げていく仕事になりますので、自衛隊で精神的にも鍛えられているみたいですし、期待しています」
■自衛隊で身に着けた“規律” 接客業にもプラスに
JR東海グループでは、規律などを身に付けた任期制自衛官が職場にマッチするとにらみ、2025年に初めて、グループの2社で4人を採用しました。 ジェイアール東海ホテルズの山下貴史人事課長: 「ホテル業界もお客さまに対して向き合う仕事になりますので、ホテル業界と自衛官の方々との親和性は高いと考えています」 接客を担当する岩尾信也さん(24)も、中途採用で2025年4月に入社した元自衛官で、航空自衛隊岐阜基地で5年間勤務していました。

姿勢よくピシッと歩く姿は、ホテルのレストランの雰囲気にもよく合います。 岩尾さん: 「最初は苦労したんですけども、お客さまから感謝されることでやりがいを持てるので、ここで就職できて良かったなと思っています」

2人のように期間延長を選ばず退職した任期制自衛官の数は、2024年度でおよそ3000人にのぼります。 人口減少などで新入隊員の確保を課題とする自衛隊にとって、退職はマイナスではないのでしょうか。 自衛隊愛知地方協力本部の丸尾寿明本部長: 「いい仕事をすることによって、自衛隊に対する理解、職業に対する理解を促進してもらって、新たな隊員としてまた入隊を促していただく。循環のサイクルが良くなるんじゃないかなと期待して考えております」 元海上自衛官の市岡さんは、ホテル開業25周年を記念した従業員向けのパーティーで、初めてローストビーフの切り分けを任されました。

市岡さん: 「やっぱりちょっと緊張しますね。自衛隊の中でも人前に立たないことが多かったので、やっぱりお客さんが喜んでもらう顔を見るとうれしいので」 守る場所を「国」から「ホテルの厨房」へ…。元自衛官の誇りと周囲の期待を背負い、照準を定めるのは一流のコックです。