
賃上げのウラで…16万8000円の見積もり→「6万円にできないか」と値下げ交渉 “下請け”からの脱却図る企業も

大手企業で『満額回答』や『過去最高』といった賃上げの動きが広がる中、愛知県内で自動車部品などの金属加工を手掛けるある企業の社長は、厳しい現実に直面しています。
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(金属加工会社の社長)
「5%以上(の賃上げ)というのは中小企業ではありえない。現実は1~2%上げるのが精いっぱい。それも無理をしている」
「なかなか価格転嫁してもらえないので、身銭を切っていくしかない」
自動車産業はメーカーから1次請け・2次請けと広がっていくピラミッド構造になっていて、関わる企業は全国におよそ6万社、取引額は約42兆円にのぼります。
これらの取引の中には、発注元からの厳しい「値下げ交渉」も珍しくないと言います。
16万8000円の見積もり→「6万円にできないか」と値下げ交渉
(金属加工会社の社長)
「ひどいときは(見積もりの)3分の1とか、恐らく海外の値段をもとにしているのか。どこでもいいから安いところを選ぶというのはやめてほしい」
実際に行われた「値下げ交渉」のやりとり。新たな部品の発注があり、16万8000円の見積もりを出しましたが、発注元からは「6万円でできないか」という回答。
およそ6割以上の値下げを要求されました。
この取引については「赤字になる」と断りましたが、受けざるを得ない場合もあるといいます。
「ひどい値引きをしないようなルール・罰則を」
(金属加工会社の社長)
「どこも最低の見積もりで出している。それ以下(の金額)でやるというのは、もう何か月か先には、ない会社かもしれない。そういうところが今を生き延びるためにいくらでもいいから、給料の半分でも出したいから仕事を取っていく。それをやっていたら、どんどん自分の首を絞めてしまう」
トヨタ自動車は2022年から段階的に材料費や物流費、人件費があがった分を仕入れ先との取引価格に反映させていますが、下請け企業全体にはまだ浸透していません。
(金属加工会社の社長)
「大企業の調達担当に(価格転嫁の)意識はない。いまだに下げる一方。ひどい値引きをしないようなルール・罰則を政府が作らないと」
売り上げ10倍以上に “下請け”からの脱却図る企業も
「下請け」からの脱却を図る企業もあります。愛知県清洲市の運送会社「ミライノ」。元々、大手運送会社からの依頼で荷物を運ぶ、下請け企業でした。
(ミライノ 橋本憲佳社長)
「当時(約15年前)は赤字だった。静岡の東部に配送する場合は、夜に出発するとか朝の2時に出発して下道で走らないと朝の9時に間に合わせることができない。運賃の交渉に応じてもらうこともなかなか難しかった」
物流業界でも「価格交渉」は大きな課題です。名古屋商工会議所の調査では、「価格転嫁」「賃上げ」についてはともに6割以上の企業が「今後対応すべき課題」としています。
ミライノは、およそ15年前から、運ぶ荷物を荷主との直接取引に絞ることを決めました。単価が上がったことに加え、運行範囲は東海3県がほとんどになり、長距離や深夜の運転は大幅に減りました。
(勤続約30年のドライバー 宮本輝雄さん)
「(以前は)14時間勤務とか。夜中に出て配達して帰ってきて次の日の荷物を積むと結構な時間になる」
Q.給料は?
「今の方が全然良い。体的には(今の方が)楽」
さらに、運送だけでなく、ラッピングトラックによる広告収入など、新しい収入源の開拓にも力を入れています。売り上げは10倍以上に伸び、賃上げやボーナスの原資になっています。
(ミライノ 橋本憲佳社長)
「同じ時間の中で、付加価値のある業務をしてそこで対価をいただく、その分を社員に還元できれば、もう少し、もっと昇給できると考えている」