
“おなかが痛くなりにくい”世界では常識の「やさしい牛乳」 常温保存可能で北海道から普及を目指す

牛乳を飲むと、おなかの調子が悪くなるという人もいるのではないでしょうか。実はいま、海外では一般的になっている「おなかにやさしい牛乳」を日本でも普及させようとしている牧場があります。取り組みを取材しました。

札幌市内の大手スーパー、イオンでは新商品「A2牛乳」が発売されました。「A2牛乳」はおなかに優しいとされ、注目を集めています。日本人の半数近くが、牛乳を飲むと、おなかがゆるくなったり、ゴロゴロしたりするなどの症状が出るという調査結果もあります。
A2牛乳とは?

「A2牛乳」は、牛乳に含まれるたんぱく質・ベータカゼインの種類が「A2」の乳を出す牛のみから採取されています。おなかに刺激を与える「A1」を含まないため、飲む人に優しいのです。

2024年、東京農業大学が初めて日本人を対象とした臨床試験を実施しました。一般の牛乳とA2牛乳をそれぞれ1週間飲んだところ、A2牛乳のほうで腹痛の軽減などの効果が確認されました。
常温保存が普及のきっかけに

オーストラリアやアメリカでは一般的な「A2牛乳」は、世界市場で2032年には3.5倍の規模に拡大すると見込まれています。しかし日本では知名度が低く、流通規模も小さいため、扱う小売店は限られていました。そこで今回の新商品は、流通業者が扱いやすいよう常温保存できる商品に。イオンが全国1000店舗で展開を始めました。
全国展開のみならず海外への輸出も視野に入れています。

こうした「A2」本格展開を仕掛けるのが、A2の生乳を生産する北海道有数の大規模牧場。育てている2100頭のうち2000頭を、10年かけて「A2」だけの乳を出す牛に切り替えました。

藤井牧場 藤井雄一郎社長:
「飼料価格その他資材燃料を含めて、1.5倍ぐらいまで値上がりしています。いま6割以上の酪農家が赤字になっているとの状況もあり、 今後経営を続けるためにも、付加価値化というのは非常に重要なポイントかなと思います」
北海道の大規模牧場が「A2」だけの乳を出す牛に切り替え。酪農の付加価値化に取り組んでいます。
A2ミルク協会の設立と海外での認証のハードル

全国の酪農家数はエサの高騰などを背景に廃業が相次ぎ、24年、遂に1万戸を切りました。藤井さんは酪農の活路をひらこうと「A2ミルク協会」を2020年に設立。ただ酪農家が「A2牛乳」の生産を始めるのには、「A2の牛」だという認証を、海外で取得する必要があります。

藤井牧場 藤井社長:
「非常に苦労しました。(検体を)海外に牛乳を1回送るのに100万円くらいかかったりするんですよ。これは日本国内で検査を成立させないと通用しないだろうな、と」
そこで東京農業大学と協力。24年には“早くて簡単に”A2牛を見分ける遺伝子検査などを確立しました。いま、協会に加入する牧場は40に上ります。

日本経済新聞社 濱野琴星記者:
「国内でもA2牛乳を取り扱う小売店は増えています。本格普及に向けては生産量を増やし流通コストを下げるなどして収益性の確立が急がれます。A2牛乳のメリットを食の安全性を求める消費者にアピールすることが重要です」