
環境に優しい食品容器⁉ サトウキビの搾りかす「バガス」が原料 名古屋市の専門商社の取り組み

脱プラスチックに向けて、食品包装資材の商社「折兼」は、サトウキビの搾りかす「バガス」を材料とした容器の開発に取り組んでいます。
バガスは従来、廃棄物として処理されていましたが、折兼ではバガスを有効利用し、微生物が分解できる環境負荷の低い食品容器を開発して販売しています。

名古屋市に本社を置く折兼は、1887(明治20)年の創業から食品容器の販売を手がけており、創業当初は名古屋駅で販売される駅弁のための木箱を主に製造していました。
そして1950年代後半からの大量消費社会の到来と共に、人々の生活様式が変化しスーパーマーケットが普及するにつれて、折兼はプラスチック容器を扱う商社へと業態を変えました。

しかし近年、土壌や海洋の汚染につながっているプラスチックごみは、生息する生物、生態系に深刻な影響を与え、世界中で対策が求められている状況です。
折兼が脱プラスチックに乗り出したのも、伊藤崇雄社長が14年ほど前に海の沖合へ船釣りに出かけた際、スーパーなどのレジで受け取るビニール袋を釣り上げた出来事がきっかけでした。
自社での取り扱いもあるビニール袋が海洋を汚染している原因となっている事実に、伊藤社長は強い衝撃を受けたといいます。
そこで、「自分たちの販売する商品で環境を汚してはいけない。環境問題に取り組むことが自分たちの責務だ」と誓ったそうです。

そして2019年ごろからグループ企業で、環境に配慮したバガス容器の開発に取り組み始めました。
バガス容器は、原料となるサトウキビの搾りかすを、かき混ぜながら水に溶解させ、パルプ状になったものをプレスで成型した後、乾燥して商品形状に整えて作ります。
サトウキビから砂糖を含む糖汁を搾ると、その残渣であるバガスは重量ベースで約30%発生するといいます。
折兼ではバガスを中国で調達し、容器の製造を中国の工場に委託しています。そうすることで製造コストを抑え、輸送時のCO2排出量を抑制しているということです。
中国は、世界でも屈指の砂糖生産国で、国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した2023年度のデータによると、1億トン以上のサトウキビを生産しています。
バガス容器は、サトウキビから砂糖を抽出した後に排出される茎や葉などの繊維質を用いており、最大の特徴は生分解性です。

2020年9月から22年3月までの約2年半の期間に実施された北九州市立大学との共同研究によりますと、土中では約2~3か月、海洋中では約5か月、「業務用コンポスト」と呼ばれる生ゴミ処理機では1日で分解されたということです。

一方、原料調達から焼却処分までの工程での二酸化炭素排出量は、従来のプラスチック容器と比べて80%以上削減(同社調べ)できたといいます。
しかし、バガス容器の普及には、課題が山積しています。
従来のプラスチック製の容器と比べ、製造コストが1・5~2倍ほど高い点も課題の1つです。
そのため、担当者は多くの企業に利用してほしいと考えていますが、「価格の面で受け入れてもらいにくい現状がある」と指摘します。

また、バガス容器に入った食品を購入することに対して、消費者が抵抗を感じることも、担当者は課題としています。バガス容器は中身が見えません。
「容器の中が見えないと、鮮度やボリューム感などがわからない。消費者は価格とのバランスを考慮して、食品を購入したい心理がある」と話しています。
そこで折兼が注力しているのが啓発活動です。小中学校での出張授業、環境イベントでの展示を通じ、バガス容器をより広く知ってもらおうと周知活動に努めてきました。

24年6月には、サッカーJリーグの清水エスパルスと連携イベントを開催。バガス容器入りの商品は価格を割高に設定し、バーガー類は100円増、かき氷は50円増としました。
しかし、その差額にもかかわらず、購入客の7割近くがバガス容器の商品を選び、使用感を試しました。
回収したバガス容器は飼料・肥料メーカーに引き取られ、堆肥として利用されたといいます。将来的には、飲食店やスーパーマーケットでの周知活動にも取り組んでいきたいそうです。
担当者は「環境問題への取り組みは、企業単体では簡単にできることではない」と指摘します。「消費者の環境問題に対する意識向上によって、より多くの人が環境問題に取り組みやすくなる雰囲気が生まれてくるのではないか」と話しています。