「リストカットの痕を消したい」患者に寄り添い傷と心を癒す治療法 カギは再生医療企業が開発した培養表皮

自分の手首を刃物で傷つけてしまうリストカット。日本財団が全国の男女2万人に行った調査によりますと、10.7%の人が自ら自分の身体を傷つけたことがあると回答しました。東京都内に住む加藤さん(仮名)もそのうちの1人です。10代の頃にリストカットを経験し、いまなお腕には当時の傷痕が残ります。しかし出産と育児を機に「傷痕を消したい」と思うようになったといいます。そんな彼女の思いに寄り添う治療法を取材しました。
すっきりする感覚に依存していた

「“無い”のが思い出せない」。そう語るのは、東京都内に住む加藤さん(仮名)。10代の頃にリストカットを経験しました。
加藤さん:
「14歳くらいの1年間くらい。人間関係があんまりうまくいっていませんでした。学校も、家庭も結構大変なことがあったので、あまり相談できるところもなかったです」
生きづらさを紛らわすように自傷行為を繰り返した加藤さん。「すっきりする感覚がある。それに依存していました」といいます。

日本財団が全国の男女2万人に行った調査によりますと、10.7%の人が自ら自分の身体を傷つけたことがあると回答しました。
加藤さんは高校進学とともに環境が変わり、リストカットをすることはなくなりましたが、傷痕は消えないまま。長袖を着て隠し続けてきましたが、出産と子育てを機に傷痕を消したいと思うようになったといいます。

加藤さん:
「子どもが生まれてみると、成長したときに“後ろめたい”のを少し減らしたい。傷についてちゃんと説明できるまで隠しておきたい。腕を出さざるを得ない状況が増えるとは思うので・・・」
そこで加藤さんが行ったのはクリニックが2024年11月から始めた「新たな治療法」です。そのカギとなる製品を愛知県蒲郡市のジャパン・ティッシュエンジニアリングが開発しました。
新たな皮膚の代わりとなる細胞シート「培養表皮」

ジャパン・ティッシュエンジニアリングでは、患者から皮膚を少し切り取り、その皮膚の細胞を培養して増やすことで、“新たな皮膚”の代わりとなる細胞のシート「培養表皮」をつくり出します。同様の方法でつくられた製品は国の承認を受けて重度のやけど治療にも使われているのです。

今回の治療では、まず皮膚の表面を薄く削り、その皮膚をメッシュ状にして戻すことで土台をつくります。その上から培養表皮を重ねると、皮膚とシートがなじんでいきます。

きずときずあとのクリニック豊洲院が行った試験的な治療では、半年ほどで傷痕に変化が。これまでのレーザーによる治療などよりも傷痕が改善しました。
加藤さんも、手術の1カ月ほど前に腕の皮膚を切り取り、自分用の培養表皮をつくっていました。

そして手術は1時間ほどで終了。シートが完全にくっつくまでは、ギプスで固定します。今年の夏ごろには、リストカットの痕は完全に見えなくなるといいます。
きずときずあとのクリニック豊洲院
村松英之院長:
「腕を出せるように頑張っていきましょうね」
培養表皮を使った傷痕治療は保険適用ではないため、一般的には160万円ほどかかりますが、きずときずあとのクリニック豊洲院ではこれまで10人以上の患者を培養表皮を使って治療しました。

患者:
「すっきりしました。自分の中で引っかかっていたところではあるので、やっとお別れできたかなという感じです」

村松院長:
「皆さん『気持ちが楽になった』と言ってくれるんです。これからも培養表皮は患者の生活を良くすると思います」

ジャパン・ティッシュエンジニアリング
畠賢一郎社長:
「疾患の治療だけではなく、心のケアにつながります。これから先の世代の医療が新しく構築できるといいなと思います」
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