「誰でも簡単に履ける」と高齢者に人気の靴下 開発した老舗靴下メーカーの若社長の胸には亡き祖父への思い

「誰でも簡単に履ける」とお年寄りやけがをした人の間で注目されている靴下があります。開発したのは名古屋の老舗靴下メーカーです。一体、どんな靴下なのでしょうか。そして、発案した若き社長の秘められた思いに迫ります。

細長い筒状のニット。取っ手のようなものがついています。ペットボトルカバーかと思いきや、靴下です。秘密はその形にあります。従来の靴下は九の字に合わせて畳むと、履き口はタテになり、足を入れる時は横に広げる必要がありました。
一方、この靴下「ほのん」は、九の字のカーブを緩やかにすることで履き口をヨコ広に畳むことができ、足が入りやすくなっています。また履き口の幅が従来の靴下に比べると広めに設計されているので、足を入れて取っ手を引っ張るだけで簡単に履けるんです。
「誰でも簡単に履ける靴下を作りたい」

「ほのん」を手掛けているのは、創業約70年の老舗靴下メーカー「マリモ」。発案したのは3代目の日比野ほのか社長です。
日比野ほのか社長:
「シニア世代の人、履きやすい靴下を探している人が多いので、あらゆる人に履いていただけるものになっています。何か人の役に立つ今までにない靴下づくりをしたいと考えていました」
「誰でも簡単に履ける靴下を作りたい」。ほのかさんがそう思い立ったきっかけは、ある祖父の一言でした。
「靴下屋なのに、履けなくて情けない」

ほのかさんが目にしたのは、祖父で創業者の敏夫さんがぼやく姿。当時、敏夫さんは患っていた糖尿病などの影響で、片目が見えなくなっていました。
ほのか社長:
「『靴下屋なのに、履けなくて情けない』とこぼした一言が胸に残りまして。靴下屋としてまずは祖父に喜んでもらいたいと考えました」
新製品の開発に乗り出したほのかさん。大事にしたのは当事者の声です。
腰掛けたまま履ける画期的な靴下

この日、ほのかさんが訪れたのは、名古屋市名東区のリハビリ施設「リハトレあおば」。「ほのん」の開発中にも通った施設です。お年寄りやケガをした人が靴下を履くときに、どんな困りごとがあるのかヒアリングしました。ほかにも、障害者施設や福祉用具業者などを何度も訪問。試作品を履いてもらい、声を集めました。

デザインを担当したのは、ほのかさんの妹で、デザイナーのさやかさんです。連日のように調整を繰り返し、試作品は100を超えました。
デザイナー さやかさん:
「丈調整だったり、つま先かかとを補強したりとか、皆さんの要望を1つひとつ聞かせていただいて、それを追加で形にしていった。なかなか大変でした。(姉は)こだわりが強いので」
開発を始めてから約2年がたった2023年10月、ついに『ほのん』が完成。さっそく、営業に掛け合いましたが、社員は「ちょっとニッチすぎるんじゃないか」と不安視していました。

社員:
「どれだけ売ってどれだけ儲かるのか、形にならないだろうというのが正直な意見でした」
営業からは、売れないんじゃないかとの声が。ファストファッションブランドが台頭する靴下業界。従来の靴下メーカーは苦戦を強いられていたからです。
ほのかさんは逆に「ほのん」を起死回生の一手にと販売を開始。すると、発売直後にグッドデザイン賞を受賞しました。

SNSなどにはうれしい声が続々と集まりました。
《施設にいる祖母に送ったらとても喜んでくれました》
《本当に片手で履けるので感動しました》
《母の日にデイサービスに通う母にプレゼントします》
祖父も私たちを天国で見て、喜んでくれていると思う

徐々に評判が広がり、累計2000足以上が売れる人気商品に。赤字だった業績も、黒字になりました。ただ、祖父・敏夫さんは「ほのん」の販売開始前に他界。一歩、間に合いませんでした。
ほのか社長:
「おじいちゃんには直接届けられなかったんですけど、祖父も天国で私たちを見て、喜んでくれていると思う。お子さんが初めて履く靴下として、ファーストソックスして家族で楽しめるようなラインアップもあればいいなという声もたくさんもらっていて、今度は子ども向けの靴下も考えているところです」