
「萬古焼の土鍋」でご飯ふっくら H3ロケット部品手掛ける町工場の1000分の1ミリ単位の削り技術

三重県四日市市の切削加工を手掛ける町工場が、無水調理が可能かつ、ご飯がおいしく炊ける土鍋を開発しました。いったいどんな土鍋なのか取材しました。
年間約2000個を売り上げる土鍋

三重県四日市市にある中村製作所。ここでは工場とカフェが併設されているんです。このカフェの売りはランチで出すご飯です。ご飯は土鍋で炊いていて、米粒が立っています。

調理に使った土鍋は中村製作所が製造する「ベストポット」です。価格は1万3200円からと土鍋としては高いですが、年間約2000個を売り上げるヒット商品です。
中村製作所は1914年創業。1000分の1ミリ単位の切削技術が自慢で、H3ロケットの部品などを加工しています。
なぜ”削り自慢”の企業が、土鍋を作ったのでしょうか。

中村製作所 山添卓也社長:
「リーマンショックで売り上げの90%がダウンしました。その時に自分たちでコントロールできる仕事ということで、自社ブランドをやろうと。萬古焼を削ることで価値ある商品を届けたかったんです」
三重県四日市市の伝統工芸品の萬古焼

萬古焼とは、三重県四日市市の伝統工芸品。その特徴は、加熱すると、金属鍋に比べて緩やかに温度上昇することです。この緩やかな温度上昇が、甘味やうま味を作り出し、ご飯をおいしく炊き上げます。
中村製作所 山添社長:
「蓋と鍋の方(隙間)から旨味が全て蒸気で逃げてしまう。ご飯がおいしくできる土鍋を追求したときに、蒸気を逃がさずに旨味をしっかり中に戻します」

ベストポットも焼き上がり時点では、鍋と蓋の間に0.01ミリのシートが通る隙間があります。隙間をなくすために、鍋の縁を削るのです。そのときに大事なのが、削れる音。この音を聞きながら、職人が工具の回転速度や回転数を微調整します。
ベストポットは保温効果も抜群

衝撃に弱い陶磁器を割らずに削るには、職人の”感覚”が必要です。削り終えた後の鍋の縁は、削る前と比べてみても凹凸がなく、なめらか。鍋と蓋の隙間に、0.01ミリのシートは通りません。隙間がないため、保温にも効果が。

普通の土鍋でご飯を炊いて1時間後、鍋の中の温度は41.6度。一方、ベストポットは61.9度。その差は20度でした。ベストポットは炊き上がり後も高温を保ち、長時間、米立ちの良いご飯を持続させることができます。これが高額でも売れる理由です。

山添社長:
「われわれが削るということで新しい価値を付けたように、萬古焼の新しい可能性は、われわれとしては探っていきたい。日本を守るものや日本の未来をつくるものに関わっていきたいです」
日本経済新聞社 川路 洋助記者:
「中村製作所は切削という技術を企業にアピールするために、BtoCtoBという考え方のもと、このベストポットを生み出しました。このヒットを通して、(本業の切削加工で)新たな顧客の開拓につなげようとしています」