けがで引退余儀なくされた元競輪選手がインソール開発 「たわみ」でケガ減少とパフォーマンス向上を実現
今、プロ・アマ問わずスポーツ選手の間で広がりを見せている靴の中敷き=インソールがあります。開発したのはケガで引退を余儀なくされた元競輪選手です。一体どんなインソールなのでしょうか。そして、込められた思いとは。
名古屋競輪場で汗を流す選手たち。その中に、競技歴28年の山内卓也選手の姿が。過去55人しかいない、500勝を達成したレジェンドです。長く活躍するための秘訣を聞くと…
山内卓也選手:
「自転車は自分の体が1番動くセッティングがある。そこに自転車のハンドルだったり部品を合わせる。それ以外にもシューズのインソールとか。力を伝えるのに必要な場所なので気にしている」
これが山内選手のインソール、靴の中敷きです。一般的なインソールと比べると、その違いは一目瞭然。中央部分が大きく盛り上がっています。
山内卓也選手:
「(普通のインソールだと)母指球に力が入りすぎちゃってて、外に力が逃げちゃう。それをシューズの向きとかで調整していたら、がに股になりすぎちゃったりとかいろいろあった。このソールに変えてからは、アーチの形がしっかりあるんで、まっすぐに力を伝えられるようになった」
このインソールを製造・販売しているのは、小牧市の松本義肢製作所。約100年前から義手や義足、サポーターなどを手掛けています。インソールの開発者の山下竜児さんです。元は競輪の選手でした。
松本義肢製作所 山下竜児さん:
「練習中の落車で大きなけがを負ってしまって、選手続けられなくなってしまった。どうしようかなという絶望感もあった。今度はけがや人が障害がある人を助ける側に回ろうかなと」
選手のけがを少しでも減らせるアイテムを作れないか。そんな思いを主治医に打ち明けたところ、松本義肢を紹介されて入社。最初に配属されたのは、オーダーメードの靴を作る部署でした。当初は競輪選手用の靴を開発しようと考えました。
松本義肢製作所 山下竜児さん:
「オーダーメードで作ると非常に高額になる。現実味が薄いなと。インソールだったら非常に可能性あるなと思って。インソールの部位って非常に重要なギアになるので」
山下さんは自身が通っていた競輪学校や選手時代の仲間に頼んで、足の形や重心のかかり方など、人それぞれ違う様々なデータを収集。まずは競輪に特化したインソールを開発しました。
松本義肢製作所 山下竜児さん:
「構造を見てもらうとわかるんですが、(土踏まずの下部分に)空間が作ってあるので、足の動きに追従するようにたわむ設計になっているんですよね」
この「たわみ」が余分な力をいなして足の負担を減らすとともに、適度な反発が踏み込みの動作をサポート。ケガの減少と、パフォーマンスの向上につながると言います。
松本義肢製作所 山下竜児さん:
「これで踏んでもらって足形をとって、そこに発泡樹脂を流し込んで足形を作っていく。形起こしして、削って、修正、矯正をかけていく。足も触って硬さとかを見て、どれくらい削るかは触診で判断します」
山下さんは、細かいカウンセリングを基にそれぞれの足の特徴に合ったインソールを提供。競輪選手の中で徐々に広がりを見せると、情報を聞きつけたアスリートをサポートする会社から他の競技用のインソールを作ってみないかという提案がありました。
いまや中日ドラゴンズの中田翔選手や、バドミントンの奈良岡功大選手をはじめ、プロ・アマ問わず20種目以上の選手が利用するようになりました。これまでに6万セットを販売したといいます。
松本義肢製作所 山下竜児さん:
「いろんな競技に携わるようになって、その選手たちが活躍していると、自分が達成できなかった夢も一緒になって叶えられると思って感動した。今後は日本だけではなくて、世界に目を向けて世界の人たちの足をけがから守れればなと思っています」