最新技術で海洋ごみに挑む技術者がカッコよさにこだわる理由 目標は「昼は技術者、夜はジャズプレイヤー」
海洋プラスチックごみ問題を解決するため開発された、浮遊ごみをモニタリングする画像解析技術「RIAD(リアド)」。川ごみをモニタリングすることで河川の清掃活動の助けとなり、将来は世界の海洋プラスチックごみ削減に貢献するかもしれない最新の技術です。
このRIADの製品化には1人の技術者の活躍があります。大手総合建設コンサルタント八千代エンジニヤリングの吉田拓司さん。陸から海へのプラスチック流出量の算定やプラごみ削減対策などに従事。現在はRIADを武器に国や自治体とタッグを組み活動しています。
「“かっこいい技術者”として海洋プラごみ問題に貢献したい」と話す吉田さんは、どんな半生を歩んできたのでしょうか。
学生時代に衝撃を受けた未曽有の大水害
神奈川県で生まれた吉田拓司さん。小学生で東京都に転校し、中高一貫校に通います。学生時代は勉強が全然できなかったと話します。
吉田拓司さん:
「中学・高校生時代は全く勉強してないんですよ。部活はずっとやっていました、管弦楽部でオーケストラを。それと同時に、オーケストラをやっていた男子が集まって、ジャズバンドもやっていましたね」
高校2年生の頃に通った予備校で、授業についていけなかった吉田さんは悔しさを感じて一念発起。周りに左右されることなく1人で勉学に励み、東京理科大学の土木工学科(当時)に合格しました。
入学のきっかけは2001年の筑後川流域の氾濫
土木工学科を目指したきっかけは2001年に起きた、九州地方筑後川流域の氾濫。床上浸水23戸、床下浸水180戸という大きな被害をもたらした水害でした。
吉田拓司さん:
「川が氾濫して、浸水し、地元の人たちがすごく悲しそうな顔をされていました。その時に、自分は将来土木を学んで、こういった水害で苦しんでいる人たちの役に立ちたいと思いました」
運命を変えた二瓶研究室
大学入学後、実験やレポートに追われる中で、運命を変える出会いがありました。吉田さんが製品化した「RIAD」の生みの親 の1人、東京理科大学理工学部土木工学科 ・二瓶泰雄教授(当時)です。大学で1、2を争う多忙しさといわれる二瓶教授の研究室で、吉田さんは1年間の卒業研究をして過ごし、その際に大学院に行く決意をしました。
―――研究室は大変でしたか。
先生に急いで結果を報告するために廊下を走ったり、修士論文の発表前日の夜の22時ごろまで資料の修正に追われ徹夜で対応したり、とても大変でした。今思えば、学費以上に勉強させていただき、大変ありがたかったのですが、毎日研究に追われている日々でした。
―――大学院を目指したのはなぜですか。
「国際学会に行ける」という話もあって、なんかカッコいいじゃないですか、国際学会に参加したっていう実績があったら(笑)
大学3年生の時に、現在所属する八千代エンジニヤリングのインターンシップに参加し、縁があって入社しました。
水質を追いかけた新人時代
入社した八千代エンジニヤリングは総合建設コンサルタント。道路や鉄道、ダムなど社会インフラの課題解決を図る会社です。施工以外の建設に関わる全ての業務に携わっていて、その1つが環境問題への取り組み。例えばダムをつくる際に、周辺の水質が悪くならないか、生き物たちが絶滅してしまわないかなど建設に関連する環境問題の調査も行います。
吉田さんは入社以降、アオコや赤潮などの水質問題を解決するための仕事に10年ほど携わっていました。ところが心に少しずつ変化が。
吉田拓司さん:
「この仕事をやっていて、自分の武器がないな、といったモヤモヤした気持ちになっていたんです」
30代半ばに第2の転機が訪れる
「強い専門性を武器にしたい」と考えていた吉田さん。そこで、学生時代にお世話になった二瓶教授に「研究の社会実装をしたい」と相談。川ごみモニタリング技術(RIAD)を紹介してもらいました。吉田さんは、これからの海洋プラスチックごみ問題を考えていく上では、必要な技術であると確信して製品化を目指しました。
プラスチックはサイズによって、5ミリを境にマイクロプラスチック、マクロプラスチックに分かれ、プラスチックの流出量を考えていく上では、サイズ別にどの程度流出しているかを把握する必要がありました。
二瓶教授が河川におけるマイクロプラスチック研究の第一人者だったこともあり、再び大学院に通い、働きながら博士課程で3年間研究を行うことになりました。
30代半ばでの学業と仕事の両立。思った以上に大変でしたが、それでも諦める気はなかったと話します。
吉田拓司さん:
「家庭や仕事もあるため、睡眠時間を削らなければならない状況が続いたことは苦労しました。今ではきっと難しいと思います。当時はとても大変でしたが、直感で「このタイミングで一生懸命勉強しないと将来、楽しくない人生になりそう」という強い懸念があったため、頑張ることができました」
「博士課程では「日本の陸域から海域へのプラスチック流出量」を現地での観測結果を用いて算定しました。現在は3年間の研究内容がそのまま活かされています。環境省のプロジェクトにも携わり、人脈も広がりました」
大学の研究は、社会に役立つのに埋もれていることも少なくないと思いますが「研究内容を社会実装してビジネスをする」というのが自分の強みになりました。
専門性高い武器を片手に海洋プラスチックごみに立ち向かう
会社に戻ってからは、博士課程の研究内容をベースとして、製品化したRIADによる「研究では実施していなかった河川を対象に川ごみモニタリングの実施」や「年間のプラスチック流出量の算定」など国や自治体のプロジェクトに携わり、海洋ごみ問題解決へ調査を行うことが増えていきました。
いつも吉田さんを突き動かす原動力、それは“カッコよさ”。「もともと『研究の社会実装をしたい』と思っていて、少しずつでも実現できています。RIADを使って社会への貢献度が高くなったことは、“カッコよさ”の1つ」と吉田さんは話します。
吉田拓司さん:
「息子が生まれてからは、少しでもカッコいい姿を見せて『自慢できるパパ』でありたいとも思っています。大学3、4年くらいの時からは夢見ていた社会人の姿もあって『昼間は技術者、夜はジャズプレイヤー』。絶対モテるじゃないですか、今後の目標ですね」
RIADという最新システムを製品化し、海洋プラごみ問題に取り組み、地域に貢献する。将来の海洋プラごみ問題を救う救世主になれる日も遠くないかもしれません。
■吉田拓司さん(40)
東京理科大学卒。土木工学を専攻し、河川の治水や環境を研究。22歳の時、国際学会を経験するため大学院に進学し研究に没頭。その後、大手総合建設コンサルタント八千代エンジニヤリングに入社、日本における陸から海へのプラスチック流出量の算定やプラごみ削減対策などに従事する。博士課程で研究していた「川ごみモニタリング」を製品化した「RIAD」を武器に、国や自治体とタッグを組み活動し海ごみ問題の第一線で活躍中。