「誰もやったことがない」最新の画像解析技術でごみ捨て場から川へ流れるごみの量をデータ化 対策に生かす
2050年には魚より量が多くなると言われる海洋ごみ。海洋ごみの7、8割は街から発生し、雨が降った際にごみが川や水路に流出して海まで流れ、魚やウミガメなどの海洋生物や、海鳥が誤って食べ、死んでしまうといった事例が増え続けています。海洋ごみ問題の解決には、流出経路である川の浮遊ごみの実態把握が鍵となります。
愛知県岡崎市の伊賀川では、最新の画像解析技術「RIAD(リアド)」を用いて川のごみの量を把握して数値化、対策を試みているといいます。データを用いて川ごみの対策を行う調査を取材しました。
川ごみの画像解析技術「RIAD」の機器設置に密着
岡崎城の西側を流れる小さな川「伊賀川」。全長約5キロメートルの乙川の支川です。伊賀川沿いの道路と岡崎公園を結ぶ歩行者用の橋「坂谷橋(さかたにばし)」で作業していたのは、八千代エンジニヤリングの吉田拓司さんと佐々木健司さん、施工会社の社員2人。坂谷橋の中心に画像解析技術「RIAD」の川ごみモニタリング機器を設置していました。
今回は一般社団法人「海と日本PROJECT in愛知県」と「八千代エンジニヤリング」が共同で実施。河川から海洋に流出するプラスチックごみの削減対策の具体化・効率化を目指して、伊賀川沿いのごみステーションからプラスチックごみが河川へ流出しているか調査するのが目的です。
吉田さんたちは、事前に用意していた機器の部品を箱から取り出し、手際よく組み立てていきます。
事前に坂谷橋の欄干に合わせて組み上げたという金属製のパイプとシステムを積んだボックスを橋に設置していきます。最終的な微調整を完了させて完成です。
川ごみのモニタリングを無人で自動化 動画で簡単に解析できる「RIAD」
RIADの機器の構成は、電力源のソーラーパネルに、川の水位を測る水位計、表面を撮影するビデオカメラ、そしてコンピューターの入ったボックスです。
川の水位が上がったことが確認されたら動画撮影を開始。川の水位や動画のデータを自動で取り込み、SIMカードを用いてクラウド上に送信され、データがクラウドにアップロードされます。その後、画像解析により動画からごみの量が計測され、自然系ごみと人工系ごみの輸送量を把握することができます。
この画像解析手法を「RIAD」といいます。
ごみの輸送量を測定する方法はこれまでもありました。しかし、いずれも川に網を入れて直接ごみを採取する方法で、雨が降って水量が多くなった際には多くのごみが流れると、安全面や作業負担が課題でした。
雨が降り水の流れが速いときに、河川に網を入れると水の力に引っ張られごみの採取が難しく、人手が必要でした。また、雨の中で作業するため、効率がよくない調査でした。
一方、RIADを用いた川ごみのモニタリングは従来の方法と比べ、安全性や確実性が大幅に向上。また、ネットワークカメラや太陽光パネル、バッテリーの使用で観測の無人化、自動化、長期連続観測が可能になりました。また、動画データを用いるため、細かい時間別に解析が可能、煩雑なセットアップや作業は不要で、動画データでごみの判別が可能です。
RIADを製品化した八千代エンジニヤリングの吉田拓司さんは、安全に無理なく川ごみの実態を把握することが重要と話します。
八千代エンジニヤリング 開発推進部 プロジェクト推進課 吉田拓司さん:
「海洋ごみの大部分は、陸から出たごみが河川を経由して海まで流出しています。この問題を解決する一歩として大切なのは、河川に流れてきた浮遊ごみの実態を把握することなんです。この「RIAD」はそういった河川に浮遊したごみがどれぐらい流れてきているのかということを把握できる技術になります」
――浮遊ごみを観察したデータは、どのように生かせるのでしょうか
八千代エンジニヤリング 開発推進部 プロジェクト推進課 吉田拓司さん:
「例えば、普段から川の清掃活動やリサイクル活動をしている方たちへ情報を伝えることで自分たちの活動でどれだけごみが減らせたのかなど数値で表すことができます。そうすることで、彼らの日々の清掃活動がどれだけ貢献しているのか分かるので、モチベーションにもつながります。また、このモニタリングを続けていきデータを蓄積していけば、今日はごみがたくさん流れそうだ、今日は少ないなどある程度の予報もできるようになると思います」
ごみステーションから河川へプラごみが流出している可能性 対策して比較
吉田さんは2023年度にも伊賀川でのモニタリングを実施。その際、他の地域との河川と比較した結果、年間のごみ流出量が少ない可能性があることがわかりました。理由としては、河川のごみは拾いやすく、清掃活動の頻度が高いことが考えられました。
しかし、伊賀川でのプラスチック流出量はゼロではなく、プラスチックごみの流出が確認されているのが現状でした。可能性として考えられるのは、ごみステーションからの流出です。
他の河川では、国や地方自治体などの調査により、ごみステーションから河川へのプラごみ流出が確認され、流出の原因の1つとして考えられてきました。伊賀川周辺のごみステーションでも、道路側への飛散防止策は実施されているものの、河川側への飛散防止に関して対応していない箇所もあり、河川にごみが流出しやすい状況でした。
そこで、今年度の調査では、9月下旬に石神橋と坂谷橋の間の川沿いに設置されているごみステーション29カ所から河川側にごみが流出しないようにネットを張るなど補強。強化前と後で川ごみの量をモニタリングして比較できるようにしています。
モニタリングの解析作業など最終的な結果が分かるのは2025年3月。しかし、ここ数ヶ月のデータの中には驚きの結果も。
まとまった雨が降った8月31日、上流である石神橋では、ごみはほぼ0キロだったのに対し、下流の坂谷橋では約3.5キログラムのごみを観測しました。石神橋と坂谷橋の間には流出防止対策前のごみステーションがあり、動画データにはごみステーションに捨てられたとみられるプラスチックの食品トレイのようなものが映っていました。
吉田さんは「ごみステーションから流れたと推測され、流出防止策に効果があるのでは」と話します。
RIADがもたらすごみ問題の未来
吉田さんはごみステーションから河川へのごみ流出削減効果をデータで確認できることは画期的だと話します。
八千代エンジニヤリング 開発推進部プロジェクト推進課 吉田拓司さん:
「ごみステーションから河川へのごみ流出対策を行うことで,川から流れるごみの輸送量が削減したかどうか、具体的に公開し、定量的に示したことって誰もやったことがないんですよ。だから、きちんとモニタリングしてデータとして出すだけでも価値があると思っています。もしかしたら世界初なんじゃないですかね」
「もしごみの流出量削減が見られた場合は、本当にごみステーションにおけるプラごみ流出防止対策による効果なのか、他の要因は考えられないのかについて整理をした後に、その結果を市民や国や地方自治体,有識者に発信していき、少しずつ横展開していければと思ってます」
ごみ問題に一石を投じる最新ツール「RIAD」。地道な功績が着実に認められれば、世界のごみ問題の解決への一歩になるかもしれません。