
農業分野に進出する大手企業 社会的な課題の解決に向けて進める企業努力 中部電力とNEXCO中日本

大手企業が新規事業として、農業の分野にも進出しています。
今回、中部電力、NEXCO中日本の事例を紹介していきます。
中部電力は、温室効果ガスの削減に加え、稲作の過重な労働を軽減する目的で、これまでとは全く異なる農法での稲作に取り組んでいます。
また、NEXCO中日本では、コーヒー豆のハウス栽培に注目。労働負担が少ない上、天候不順の影響を受けにくい、商品価値の高い農産物で地域活性化を目指します。
新たな稲作で、水田が抱える課題に取り組む中部電力
昨年の不作でコメが高値で推移し続ける現在、水が張られた田んぼの近くを通ると、しっかり育って!と稲の苗に声をかけたくなる人も多いのかもしれません。
ただ、見慣れたこの光景がもしかしたら一変してしまうかもしれません。

愛知県新城市では、一面に広がる田んぼに水が張られ、青々とした苗が揺れています。
稲作においては、最も水が必要な時期です。

ところが水田の隣には、水が張られていない田んぼがあります。
その田んぼには、雑草もちらほら見えます。
実は、電力会社の中部電力が、ある方法で試験栽培に取り組む田んぼなのです。

中部電力 事業創造本部・犬飼涼二さん:
「水を張らずに稲を栽培する方法の実証実験を行っています」
なんと、水を張らないコメ作り!
乾いた田んぼに種もみを直接まく「節水型乾田直播」という栽培方法です。

通常の水を張る稲作では、田植え前にまず土を起こしてから田んぼに水を張って土を細かく砕き、平らにならします。
苗はビニールハウスなどの別の場所で、種もみから育てます。
稲の収穫直前に田んぼの水を抜くまで、水質や水量の管理が欠かせません。

それに対し、水を張らない稲作では、耕した土に種もみを直接まくので苗を別に作る手間もありません。降雨を除き、稲に水が供給されるのは年に5回ほどです。
しかし、デメリットもあります。

中部電力 事業創造本部・犬飼涼二さん:
「これは去年収穫した稲です。地域の平均が(1000平方メートルあたり)7~8俵くらいなんですけど、そこから3割くらい減っている」
この栽培方法では収穫量が減ってしまうのが現状です。

そこで、この日に中部電力が実施したのは、ビール酵母などを混ぜた特別な肥料のドローンでの散布。
成長に必要な栄養分を稲に多く吸収させ、収穫量を安定させるのが狙いです。
ところで、なぜ電力会社がこの栽培方法に挑戦するのでしょうか。
実は、労働量の削減以外にも解決しなければいけない問題を、水田による稲作は抱えているのです。
中部電力 事業創造本部・犬飼涼二さん:
「水田は、温室効果ガスの一つであるメタン(CH₄)を排出していますので、地球温暖化を進めてしまいます」
水を張った田んぼの中で酸素が少ない状況になると、微生物が作ってしまう温室効果ガスのメタン。
水を張らなければ酸素が十分にあるため、メタンの発生を8割ほど減らせるということです。

企業活動においてカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量実質ゼロ)を目指す中で、農業分野でも温室効果ガスを減らそうと企業努力を続けているといいます。

中部電力事業創造本部の山田倫章(ともあき)部長は、現在の農業分野での高齢化や従事者の減少、それに伴う農地の荒廃といった課題について、その解消につながるのではないかということで新しい稲作に取り組んでいる、と話します。
中部電力 事業創造本部・山田倫章部長:
「(この農法で去年収穫した米について)高級なブランド米に比べると少し味は落ちるかと思いましたが、おいしくいただける品質でした」
施設でのコーヒー豆栽培で、新たな農産物の事業化を目指すNEXCO中日本
静岡県浜松市で耕作放棄地などを活用し、枝豆やレタスを栽培し販売しているNEXCO中日本。
農業分野での新たな取り組みとして、2024年3月からコーヒー豆の試験栽培を名古屋市港区の「農業文化園・戸田川緑地」で進めています。
約200平方メートルのガラス温室で、アラビカ種の4品種を約90株栽培しています。
この1年は植え付けて間もないことから、今年1月から6月までの実の収穫は少量でした。
しかし現在は、昨年よりも多くの花が咲いている状況であり、来年はより多くの実が収穫できる見込みです。

NEXCO中日本は、農業従事者の高齢化や重労働による担い手不足、天候不順による不作リスクなどを社会的な課題として捉えているといいます。
その解決策の1つとして、比較的軽作業で、天候の影響も受けにくい、施設でのコーヒー豆の栽培に着目しました。
日本は世界有数のコーヒー消費国で、栽培して商品化できれば収益性の高い農産物です。
今後、NEXCO中日本は栽培ノウハウを習得し、高速道路のサービスエリアでの提供や観光農園などによる地域社会の活性化も視野に入れた事業化を目指しています。